オフィスの常識覆すIT企業 「顧客に会わない」「電話受けない」

2013.4.14 12:02

 出張しない、顧客に会わない。それどころか、電話もファクシミリもない…こんなユニークな会社がある。ソフトウエア開発のChatWork(チャットワーク)は、すべての仕事をインターネット上ですます。経費削減が目的ではない。コストも含め「無駄なこと」を一切省き、社員が快適な環境で仕事に専念できる体制を創るためだ。それがこんな破天荒なビジネススタイルにつながった。しかし、それにしても…。問題はないのだろうか。

 社員が使うパソコンは3画面タイプ

 社名にもなっている同社の主力商品は、クラウド型の企業向け情報共有支援ソフト「チャットワーク」。インターネットを通じてリアルタイムで連絡や商談などができるシステムで、登録者は国内で約16万人にのぼる。

 JR吹田駅から徒歩15分。住宅や商店が並ぶ一角に、2階建てのシンプルな外装の本社がある。オフィスに入ると、人気ロックバンド、Mr・Childrenのバラード曲「HERO」が流れてきた。

 「みんなのお気に入りの曲を集めて、BGMにしているんですよ」と、マーケティング部事業長補佐の堀内寛裕さん(29)が説明してくれた。

 オフィスではプログラム、マーケティング、管理部門の社員11人が、ラフな格好でパソコンに向かって黙々と仕事をしている。

 すぐに気がつくのは、オフィスにつきものの電話やファクシミリ、書類などが見当たらないことだ。社員が向かっているパソコンはトリプルモニター(3画面)形式。社員や取引先とのやりとり、企画作成、スケジュール管理などに活用している。

 ユニークな「強制退勤制度」「ノートーク制度」も

 東京・池尻大橋にある東京オフィスや、米シリコンバレーに常駐している山本敏行社長(34)とは、テレビ会議を通じてやりとりする。

 「仕事の最中に電話がかかってきて、思考が途切れてしまうようなことがない。とても集中できます。パソコンを1画面から2画面に増やすだけで、業務効率は1・4倍になるんですよ」と堀内さん。

 同社は中小企業のIT化を支援しようと、山本社長が平成12年に創業した「EC studio(イー・シー・スタジオ)」が前身だ。

 最大の特徴は「顧客に会わない」「電話を受けない」というスタイル。ホームページだけで営業し、商談の申し込みや問い合わせなどはすべてメールで受け付けるため、営業にかかわる経費が不要だ。

 一方で「社員第一主義」がポリシー。「社員が満足していない会社が顧客を満足させることはできない」という考えのもと、社員が仕事をしやすい環境作りを重視している。

 たとえば、オフィスには、太陽の動きに連動して室内に入る光の量を調整するブラインドや、換気に役立つ二酸化炭素濃度計などが設置されている。

 ユニークな制度もある。午後9時以降の残業を禁止する「強制退勤制度」、一定の時間は緊急の場合を除いて話しかけない「ノートーク制度」など。

 採用は“体験入社”で人物を見極めてから

 また、前身の社名の「イー(1)・シー(4)」にちなみ、社員の配偶者の誕生日に1万4千円を食事代として支給する「バースデー制度」もある。

 社員がパソコン画面に集中できるよう、さまざまな気配りをしているが、だからといって、人付き合いができない社員になってしまっては困る。山本社長は「徹底的にITを追求しますが、コミュニケーション能力は重視している」という。

 たとえば採用時の面接。書類審査や面接に多くの時間をかけるのは非効率的。「面接は自分のいいところしか見せようとしない」(山本社長)と、「体験入社制度」を導入。1次面接をパスした人材は2日間、職場で実際に働き、ランチや飲み会を通じて社員と接してもらう。

 「入社してから会社に合っていないのが分かったというのでは、会社も社員も不幸。夫婦にたとえるのなら、お見合い(採用試験)と結婚(入社)の間に、同棲(体験入社)を挟むわけです。2日間一緒にいれば分かります」と山本社長。

 効率化というと、なんだか“冷たい”イメージを連想しがちだが、同社にとっては社員を大切にするカギ。徹底したIT化によって、業績と社員の満足度を同時に向上させている。(宇野貴文)

◇会社データ◇

本社=大阪府吹田市内本町2-21-8

創業=平成12年

事業内容=ソフトウエア開発

売上高=非公表

従業員数=30人

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