新潮文庫100周年 新シリーズ「nex」 表紙も一新、まず6点

2014.9.7 12:03

 ■キャラの立つ「文学」めざす

 今年創刊100周年を迎える新潮文庫に、8月末から新シリーズ「新潮文庫nex(ネックス)」が加わった。「キャラクター性と物語性の両立」をテーマに掲げ、漫画やライトノベルと一般文芸作品の橋渡しとなるようなエンターテインメント小説をそろえる。国内外の名作文学に定評がある老舗文庫の挑戦に注目が集まる。(海老沢類)

 8月末に発売された第1弾は、ベストセラー『心霊探偵八雲』シリーズなどで知られる神永学さんの『革命のリベリオン』や、漫画やアニメになった『とらドラ!』を手がけた竹宮ゆゆこさんの新作など6点。ライトノベルで人気を得ている作家らの書き下ろしを中心に、今後も月3~6点のペースで投入し、年間40~50点の刊行を目指す。

 まず目を引くのは、ライトノベル風のイラストを配した光沢感あふれる表紙カバー。本文の紙はやや厚めで、新潮文庫の特色であるスピン(しおり紐)もない。

 「『これが新潮?』と意外なイメージをもたれるかもしれない。でも弱い分野や足りない品目がある以上は枠組みをつくる必要があった」と振り返るのは、担当編集者の高橋裕介さん(29)だ。人気ライトノベルや本屋大賞受賞作といった売れ筋の小説を綿密に分析。登場人物の個性を強調する“キャラ立ち”優先という共通項を導きだし、新シリーズの方向性を練り上げた。「キャラクターの魅力を前面に出しつつ、物語の面白さをしっかり担保する。文芸出版社として小説を読んでよかった、という読み味を残していきたい」(高橋さん)という。

 第1弾の6点のうちの一つ、河野裕(こうの・ゆたか)さんの書き下ろし青春ミステリー『いなくなれ、群青』にもそんなコンセプトが見て取れる。語り手である高校生の「僕」が、奇妙な島で幼なじみの少女と突然再会するところから始まる話。見た目はりりしくまっすぐな性格をした少女の魅力と、2人の周囲で起こる連続落書き事件や舞台設定自体の謎などが融け合ってストーリーが進む。『ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)』のイラストを手がけた越島はぐさんが表紙を描き、初版は10万部。先週から異例のテレビCMも放映しており、力の入れようが伝わってくる。

 携帯性に優れ価格も安い文庫は出版不況下でも比較的健闘してきた。だが今年4月の消費税増税も影響してか、「7月の書店店頭での販売状況は、前年同月に比べて約10%のマイナスと厳しい数字になっている」(出版科学研究所)。新レーベル創刊に伴うリスクは大きく、「nex」もあくまで新潮文庫内の派生シリーズという位置づけだ。そうした形式を取ることで、書店に確保した既存レーベルの棚を活用できる利点もある。

 高橋さんは「本を読む習慣を持った若い層はたくさんいる。名作文学への入り口となるような魅力的なシリーズにしたい」と話している。

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