茨大を悩ませる“南北問題” 生き残り競争、国立大学も例外にあらず

2015.6.21 07:01

【早坂礼子の経済ウオッチング】大学生存競争(3)地域連携

 大学の生き残り競争は国立大学も例外ではない。なかでも地方に立地する国立大学は独自色を出すのに懸命だ。

 茨城から世界を学ぶ

 茨城県の中央部に位置する県庁所在地・水戸市。水戸徳川家ゆかりの名園「偕楽園」や弘道館などで知られる城下町だ。戦後の1949年、この地に旧制水戸高等学校、茨城師範学校、茨城青年師範学校、多賀工業専門学校を包括して新制大学の茨城大学が発足した。いまでは水戸市のほか、日立市や阿見町にもキャンパスを構えて、約8000人が在籍している。

 茨大の米倉達広副学長は「昨年9月に学長が交代して、これまでの10倍くらいのスピードで改革が始まりました」と話す。目指しているのは「地域に開かれた大学」だ。茨大には明治時代から師範学校や専門学校として地元と交流を深めてきた伝統がある。大学の研究成果を地域に還元していくのが役目という。

 まず広報室を新設して専従の職員を3人、新規採用した。既存のやり方にこだわらない自由な情報発信をしていくためだ。地方創生推進室も作った。地方の活性化を経済の起爆剤に掲げた国の方針を受けて産学連携案件を進めていく。

 「茨城学」も始まった。約1700人いる1年生の必修として茨城県の歴史や自然、文化、産業などを多角的に学ぶ全15回の授業で、前半は各学部の教員やそれぞれの専門分野に関係する講義を、後半は県や市町村の担当者が各地域の課題について話をする。

 同大の学生のうち半数は県外の出身で、関東近県が最も多いが北海道から沖縄までほぼ全国から集まっている。「茨城を学ぶことは地域や世界の課題を知ることにつながる。考える力を養い、地域をリードする人材に育てる」のがねらいだ。

 南北問題の解消を

 課題は「南北問題」だ。茨城県南部と北部の格差問題である。

 県南部のつくば市や守谷市はもともと地理的に近い千葉県や東京都に通勤や通学をする人が多かったが、2005年につくばエクスプレスが開業してからは人口が流入。沿線に大規模なニュータウンが出現し、圏央道の整備も進み、大型店も進出している。守谷市の人口は2004年から9年までの5年間で16・4%増と全国で3番目の増加率を記録した。

 一方、水戸を中心とした北部では人口減少や大型店の撤退などが続き、山間部の過疎地域も増加傾向にある。エリア内には日立市や、ひたちなか市(旧勝田市)があり、日立製作所の関連工場が多い。戦前や高度経済成長期には人口が流入し活況を呈していたが、日立は本社機能を東京に移転してしまい、地方税である法人税が地元に落ちない。「地域の中小企業からは疲弊した声しか聞こえてこない」と言う。

 茨大はこの南北問題のあおりを食らっている。入試合格者が南、つまり併願先の首都圏の大学に流れてしまうのだ。「優秀な学生を確保するには南北問題の解消が必要。地域の高校や若い人に振り向いてもらえるような目玉事業を発信していかないと」と米倉副学長。

 その一環で今年3月末「いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム」を作った。茨城大、茨城キリスト教大(日立市)、茨城工業高等専門学校(ひたちなか市)、常磐大(水戸市)の4校が協議会をつくり、インターンシップや校外授業などの共同事業を行う。いずれは入試の広報やオープンキャンパスも共同で、という声もある。少子化で学生の数が先細りになるなか、独自で戦うより連携を強化した方がいい。米倉副学長は最後に「キーワードは協業ですよ」と締めくくった。

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