京都の公衆トイレ“想定外の汚れ方” 訪日客の「爆買い」はうれしいけれど…

2015.8.9 07:02

 昨年1年間の外国人宿泊客数は183万人で、前年を70万人近く上回り過去最多となった京都市。米大手旅行雑誌「トラベル+レジャー」で世界の人気観光都市第1位に2年連続で選ばれ、名実ともに世界から認められた国際観光都市が、人間の生理現象に絡む困難な問題に直面している。

 中国人をはじめとする海外からの観光客によるとみられる公衆トイレの使い方をめぐるトラブルだ。トイレのマナーが国によって異なるためか、思いも寄らぬ汚れ方をしているケースが観光地で後を絶たないのだ。東京五輪が開かれる2020(平成32)年に向け、さらなる外国人観光客の増加を目指す京都市。トイレ問題を解決すべき課題と位置づけ、正しい使い方を伝える異例のステッカーを作成、公衆トイレに張り出すなど対応に追われている。

 「あり得ない汚れ方」

 京都市内の公衆トイレは今、どんな汚れ方をしているのか。

 京都市まち美化推進課によると、和式のトイレでは逆向きにかがんで用を足すケース、洋式のトイレでも、便座に足を乗せて用を足したり、便器の外に“誤爆”したりするケースがみられるという。

 当然、便座は土足で汚れ、個室内は凄まじい異臭を放つ。

 「和式トイレの使い方が分からないというのはまだ理解できる。しかし、洋式トイレでも汚されるとはどういうことかよく分からない」と担当者は話す。

 このほか、使用済みのトイレットペーパーをトイレに流さずに、備え付けのごみ箱に捨てるケースも目立つ。中国や韓国では、下水設備と紙質の問題から、トイレットペーパーをトイレに流す習慣はなく、備え付けのごみ箱に捨てることが多い。同課の担当者は「そうした国々の観光客が、自国のやり方でそのまま使うのではないか」と話す。

 こういう使い方をされると、後に入った観光客は不快な上、使いにくく、清掃もしづらい。清掃を委託している業者からも「ちょっと考えられない汚れ方をしているときがある」などと苦情が寄せられることがある。

 “爆買い”はありがたいが…

 近年、世界各地で観光客が絡むトラブルが報じられるのは、著しい経済発展を遂げた中国人の観光客が多い。

 日本では“爆買い”で経済効果に寄与してくれる一方、床に唾を吐く▽並ばない▽大声で騒ぐ▽陳列商品を触ったり、粗雑に扱ったりする-といったマナーやモラルに絡むトラブルが頻発。トイレの使い方をめぐっても、「排泄物を流さない」「便器の外に飛び散っている」「異臭がすごい」といった困惑の声がインターネット上で飛び交う。

 京都市まち美化推進課によると、市内の公衆トイレが汚されるケースが目立つようになってきたのはここ数年のことだ。

 中国のインターネット検索最大手「百度(バイドゥ)」日本法人と業務提携した公益財団法人京都文化交流コンベンションビューロー(KCB)によると、中国では京都人気が年々高まっている。平成26年4~12月に京都市内の主要25ホテルに宿泊した外国人の前年同期からの増加数は中国が3万3435人増で1位になった。

 トイレ問題を引き起こしているのはやはり、中国人観光客が多いのかもしれない。

 5カ国語ステッカー

 とはいえ、トイレという性格上、個室内に防犯カメラをつけることはできず、“汚した犯人”をつかまえることもできない。

 そこで市が考えたのがイラスト入りの啓発ステッカーだ。ステッカーはA4判で、日本語、英語、韓国・朝鮮語、中国語(簡体・繁体)の5カ国語で和式、洋式のそれぞれのトイレの使い方を説明している。

 例えば、和式トイレなら「トイレはしゃがんでご利用ください」「トイレットペーパーはゴミいれにすてずながしてください」などと記載。それぞれの記載には、逆向きでなく正しくしゃがんだり、トイレットペーパーを備え付けのごみ箱でなくトイレに流したりするよう、イラストで正しい利用法と誤った使い方を説明している。

 さらに日本のトイレは進化が進み、流し方もレバー、センサー、ボタンとさまざまなタイプがある。外国人にとって使い方が分からなくても不思議でない。このため、ステッカーでは「手をかざすと水がながれます」(センサー)、「ボタンをおすと水がながれます」(ボタン)といった3種類の説明をそれぞれイラスト入りで用意した。

 市では、平成25年にも文字中心の啓発ステッカーを作成したが、「効果があったかどうかもよく分からなかった」として、今回改めて「より分かりやすく」とイラスト中心のステッカーにしたという。

 市内に65カ所ある公衆トイレを中心にステッカーを貼るほか、市のホームページ(HP)でも無料でダウンロードが可能。担当課は「外国人観光客が多く利用するような飲食店や商業施設にも貼ってほしい」と呼びかける。

 京都市の観光名所・高台寺(同市東山区)を訪れていた中国人の男性客の王(ワン)磊(レイ)さん(45)も、5年前に初めて最初に来日した時には公衆トイレの使い方が分からなかった。ステッカーについて「初めて日本に来る人には分かりやすいと思う」と話していた。

 観光客もてなしのためトイレ充実

 観光都市にとって、観光客に散策を楽しんでもらうためには公衆トイレの整備は不可欠だ。

 京都市では、公衆トイレマップを作成し、市のHP上で無料で配布しているほか、観光客が利用できそうな大学や寺院などの民間施設に水道代や整備費を助成し、トイレを観光客向けに解放する「観光トイレ」の整備を進めてきた。

 市は、2020年東京五輪・パラリンピックまでに現在26カ所ある観光トイレの倍増を目指し、管理する民間施設に対する助成を手厚くする取り組みを進めている。助成の中には、和式トイレから洋式トイレへの切り替えやバリアフリー化に必要な経費も含まれる。

 市の担当者は「観光客をもてなすためには多くのトイレが必要。開放してくれる民間施設に理解を求めるためにも、きれいなトイレの使い方を広く知ってもらうことは重要だ」と話している。

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