雑談力がパフォーマンスを上げる? 社員の行動データからわかる「ムダ話」の価値

2015.11.8 17:04

 今、企業にとってビッグデータを活用するのが当たりまえの時代になった。近年「人の行動」がデータ化されたものが、売上・生産性の向上に利用され始めている。主流になっているのは、消費者や観光客などの動きを把握するために、SNS上の投稿などから取得した位置情報などのデータを用いて、関心のある物や場所、テーマを探るという方法である。そしてそのデータ取得の対象は「お客さん」だけでなく、社内の「社員」の動きにまで及んでいるのだ。そんな人の動きを利用した、新しいデータ活用法から、ビジネスにおいて社内の雑談がもたらす効果が見出せるという。

 ■休憩時間の無駄話で生産性アップ?

 人の行動に着目してデータを拾い、ビジネスに役立てることにいち早く着手したのは、日立ハイテクノロジーズである。2002年から研究をはじめ、2009年に「ビジネス顕微鏡」と呼ばれる、職場などでのコミュニケーションを科学的に捉えて解析するソリューションを実用化している。

 名刺型のセンサーを首からぶらさげることで、対面コミュニケーションをとった相手との対面時間、人数、活性度などの情報を取得する。各場所のデータは、オフィスや店舗などに設置された赤外線ビーコンと呼ばれる端末から取得する。これらの人間行動データと経営情報や顧客データ、商品データなどを合わせて総合分析するのが「ヒューマンビッグデータ」と呼ばれるものだ。

 この社内コミュニケーションの計測により、あるコールセンターでは休憩時間などのインフォーマルな会話の活気によって、拠点ごとに業績差があることが判明したという。そこで、休憩メンバーを相性の良い同世代同士の組み合わせにするなどして、対面コミュニケーションを活性化させることで、受注率13%アップに成功した事例がある。社内コミュニケーションの活性化が業務に影響することは、なんとなく予測はできるものの、いざ数値化することで実際に業務改善したという事例を知ると、昼休みの社員同士の無駄話も意味があると感じざるを得ない。

 ■無駄と思われるコミュニケーションがもたらす効果

 このように雑談がビジネスにおいて有効に働くことは、すでに多くの人々によって提唱されている。そもそも、「無駄話は潤滑油の役割を果たす」といわれていることもあり、社員同士で一緒にランチを取ったり、終業後に飲みに出かけたりすることで、上司と部下の関係やチームの結束力を高め、仕事がスムーズにいくという考え方はどの会社でも見受けられる。

 そんな雑談など不要と思われるコミュニケーションがもたらす効果は、2010年のハーバードビジネススクールのTsedal B. Neely教授らの研究によって明らかになっている。それは、意図的に対面、メール、電話などの大量コミュニケーションをとる人は、そうでない人と比べると、よりスピーディーかつ円滑に仕事を進め、完了している傾向があるというのだ。そして教授は、大量のコミュニケーションは時間の無駄だと思っていた調査前と、考えを改めているという。むしろコミュニケーション量が、仕事のパフォーマンスに影響している事実があったのだ。積極的に誰とでも雑談をするように心がけるだけで、仕事の成果も変わってくると考えられる。

 ■集団の幸福度が生産性に直結する

 2015年2月、日立ハイテクノロジーズは「ヒューマンビッグデータ」サービスにおいて測定する内容を追加したことを発表した。それは、集団の「幸福感(ハピネス)」を意味する「組織活性度」である。「高ハピネス」の場合、身体運動の持続時間に自然な“ゆらぎ”があるという。一方、「低ハピネス」だと“ゆらぎ”は不自然になるのだという。この基準で個人の活性度を定量化し、組織単位で集計することで組織活性度を算出するというものだ。

 日立評論の2015年6月に出されたレポート「ウエラブル技術による幸福感の計測」によれば、「人の幸福感はパフォーマンスに大きく影響することが報告されている」そうで、「幸福な人は、そうでない人に比べて営業の生産性は37%、クリエイティビティは300%も高い」というデータがあるという。

 そして、こうした幸福度の高い社員が多い組織ほど、利益が高いという報告もあるという。確かに幸せな人間ほどパフォーマンスがいいことは、なんとなく予測がつくが、その基準となるのが“ゆらぎ”だ。人とのコミュニケーション時はもちろん、歩行、うなずき、タイピングなどの微少な動きも関係するという。そして幸福感の高い人や集団のデータには、身体活動の静止と非静止の持続時間や割合が、自然なグラフとして表われるのだそうだ。

 もはや仕事の業績だけでは測れない、「社内活性度」そのものがもたらす多大なビジネスへの効果をここから知ることができる。ぜひ社内での雑談を、個人的な欲求を満たすためだけでなく、生産性の向上や社内活性度への貢献の意味合いとしても積極的に取り入れていきたいものである。

 取材・文/石原亜香利

転職成功者の平均年齢は過去最高の32歳に

「光コラボ」利用者、利用意向者を合わせても1割未満

会社の上司にできること、できないこと

閉じる