ネット通販、ホテル、外食の投稿…実は“やらせレビュー”が横行していた?!

2016.1.24 17:12

【エンタメよもやま話】

 かなり遅いですが、明けましておめでとうございます。毎週、国内外のさまざまな分野の“エンターテインメント”をご紹介している本コラムも4年目に突入しました。ますますパワーアップしますので、今年も宜しくお願いいたします。

 というわけで、新年1発目の本コラムは久々となるウェブ関連のお話でございます。

 こちらもすっかり旧聞に属してしまうお話なのですが、国内の複数のネット系ニュースサイトなどによると、大手コーヒーチェーン、スターバックスの二子玉川(東京都世田谷区)が新年2日に売り出した福袋108個(3500円と6000円の2種類)が、午前7時の開店前から店頭に陣取っていた先頭集団によって買い占められ、彼らの後に並んでいた顧客が買えなくなったのです。

 買い占めの目的はヤフオク!での転売で、当然ながら買えなかった人たちが「こんなふざけた話があってたまるか」と大激怒。ネット上では買い占めた集団が特定され、非難が集中するなど大炎上しました。

 顧客1人当たりの販売個数を制限しなかったお店にも問題ありですが、やはり、非難されるべきは転売目的の卑劣な買い占めを強行した連中と、こうしたモラルなき転売を黙認するヤフオク!側だと思うのです。

 モラルがないと言えば、産経WESTに大晦日にアップした「ヤフー映画が暴露…ディズニーの“暗黒面”に堕ちた? スター・ウォーズEP7批評はネット社会の縮図だ」もそうでした。ヤフー映画のこの作品のユーザーレビューを見ると、説得力あり過ぎの正論が並ぶ最低ランク星1つの投稿の後に、相変わらず「鳥肌が立った」「泣いた」に加え、低評価の投稿に対して「その程度のおつむで、映画を観ようなどとは、片腹痛い」「映画を見て、物語や設定を理解することのできない知能的に劣っている人は理解できないかもしれません」といった下劣な内容の星5つ満点のステルス・マーケティング投稿が連投されています。

 しかし、ネット先進国の欧米では、こうしたモラルなきネットへの出品や下劣なステマを繰り返す連中に対し、当のネット企業側が法的手段で対抗し始めているのです。このお話、欧米では3カ月ほど前に注目を集めたのですが、日本ではほとんど話題にならなかったので、今回、スター・ウォーズのステマとスタバ福袋問題に合わせ、ご紹介させていただきます。

 昨年の10月18日付英紙ガーディアンや19日付米紙USA TODAY(いずれも電子版)など欧米主要メディアが一斉に報じたのですが、ネット通販世界最大手の米アマゾン・ドット・コムが昨年の10月16日、1回につき5ドル(約590円)の報酬をもらい、満点の星5つや、それに次ぐ4つの“やらせレビュー”の投稿を繰り返していた個人1114人を、氏名を特定しないまま、本社がある米ワシントン州シアトルのキング郡の上級裁判所に提訴したのです。

 ご存じない方のためにご説明しますと、アマゾンには、アマゾンが扱っている商品に関する意見や感想をサイト上に自由に公開できる場である「カスタマーレビュー」というものがあります。5段階評価で満点が星5つで、最低は星ひとつです。

 そして、こうしたカスタマーレビューの評価は、アマゾンに限らず、消費者がネットで商品を購入する際の大きな指標になっています。

 例えば、米調査会社フォレスター・リサーチによると、ネット通販で何か買い物しようと考えている消費者の45%がこうしたカスタマーレビューを購入するかどうかの目安にしており、同じく米調査会社ニールセンによると、購入者の3分の2がカスタマーレビューの結果を信頼しているといいます(昨年10月19日付AP通信)

 それだけに、高評価の商品は着実に売り上げが伸びます。実際、米調査会社ガートナー・リサーチの幹部は前述のAP通信に、レストランの情報サイトのカスタマーレビューの場合、星が半分増えるだけで、午後7時の予約が15~20%増えることも十分あると指摘しています。

 なので、そこに“やらせレビュー”が横行すると業者やお店の信頼が大きく毀損(きそん)されるのは確実とあって、訴訟になったわけです。アマゾンは裁判所に提出した訴状で「ごく少数の売り手やメーカーが偽のカスタマーレビューを投稿し、競争上の優位性を不正に獲得しようとしている。自身の利益や一部の不正直な販売・製造業者の利益のためにアマゾンの顧客が欺(あざむ)かれ、アマゾンのブランドの質が低下している」と主張しました。

 では実際、こうした“やらせレビュー”がどのように投稿されていたかといいますと、信じがたいことに“やらせレビュー”をせっせと書いていた連中は、いま欧米で話題のお仕事あっせんサイト「Fiverr(ファイバー)」(本社・イスラエル)で「やらせレビュー書きます!」と自ら雇い主を募っていたのです。

 2010年に登場したファイバーは、自分の特技を5ドル(約590円)で売りたい人、つまり「5ドル払ってくれたら、こんなことをやりますよ」と雇い主を捜す人々がわんさと集まるユニークなウェブサービスで、社名も5ドルの「ファイブ」をアレンジしたものです。

「ロゴをデザインします」「翻訳します」「お店のキャッチコピー作ります」「3Dアニメ作ります」といった多種多彩な計約300万種類のお仕事を掲載しています。

 現在、イスラエルのテルアビブにある本社のほか、ニューヨークやサンフランシスコなどにもオフィスを構えるなど急成長を遂げていますが“やらせレビュー”を必要とする連中が、ここでお仕事を掲載している人とコンタクトを取り“やらせレビュー”を書かせていたのです。

 アマゾンではまず昨年4月、売り手やメーカーからの依頼で“やらせレビュー”を組織ぐるみで書いていた米などの4つのサイトの運営業者について「虚偽広告を掲載し、商標権を侵害している」などとして提訴しました。

 昨年4月9日付ロイター通信などによると、これらのサイトは、高評価レビュー1投稿に対し、19ドル~22ドル(約2230円~約2600円)の報酬を受け取っていたといいます。

 この提訴で当該の4つのウェブサイトは閉鎖され、当然ながらアマゾンは該当商品を凍結。関わった販売者を除名しましたが、これに続き今回“やらせレビュー”を請け負っていた個人も提訴したというわけです。

 アマゾンで最初にカスタマーレビューが書かれたのは1995年6月で、これまでに全世界で1億以上のレビューが書かれていますが、一方でアマゾンに限らず、様々なネットサービスではステマに代表される“やらせレビュー”の横行も問題化しています。

 米イリノイ大学が2011年に発表した研究結果によると、ネット通販されている商品のカスタマーレビューの30%はニセモノ、つまり“やらせ”で、ホテルやレストランのサイトのレビューでも10%~20%はニセモノだったといいます(昨年10月19日付米CNN電子版)

 というわけで、昨年、立て続けに“やらせレビュー”撲滅の姿勢を見せたアマゾンには大きな注目が集まりました。

 今回、訴えられた1114人は、アマゾンの審査を逃れるため、複数のアカウントやIPアドレスを使い分けていたほか、商品が入っていない空の封筒を受け取るなどの手口で配送記録をでっちあげ、商品購入者であることを証明する「認証マーク」を取得したといいます。

 アマゾンのカスタマーレビューは当該商品を購入していなくても投稿できますが、「認証マーク」があるレビューに関しては、実際にアマゾンで当該商品を購入し、使っている人の感想ということで信頼度が増します。ところがこの「認証マーク」まで嘘っぱちだったというのです…。

 アマゾンによると、例えば「bess98」と名乗る人物はファイバーで「あなたがアマゾンで販売する製品やキンドルブック、電子書籍に素晴らしいレビューを書きます」とPRし、24時間365日、30もの異なるアカウントを使い分けて“やらせレビュー”を投稿し続けていたといいます。

 アマゾンに限らず、カスタマーレビューを抱える欧米のウェブサービスでは、特定の形容詞がやたら多い投稿などをアルゴリズム(コンピューターを使って特定の目的を達成するための処理手順)の技術を用いたり、何百人もの専従スタッフを投入するなどして“やらせレビュー”の排除に尽力していますが、完全に排除できていないのが実情です。

 アマゾンでは今後、提訴した1114人について、誰に頼まれ、どこにどれだけの“やらせレビュー”を書いたかといった詳細や背後関係などを明らかにする一方、損害賠償も請求する考えですが、“やらせレビュー”の温床になったファイバーに関しては、アマゾンへの協力体制構築によって1114人の提訴が実現したことや、ファイバー自体も“やらせレビュー”作成といったモラルなきお仕事についてさらなる規制強化に乗り出していることから、提訴はしないと説明しています。

 前述したように、アマゾンが昨年4月、組織ぐるみで“やらせレビュー”の投稿を請け負っていた4つのウェブサイトを提訴した際、“やらせレビュー”が投稿された商品は凍結し、関わった販売者も除名しました。

 カスタマーレビューを抱える日本のウェブサービスも、ステマといった“やらせレビュー”に対し、法的措置も含めた厳しい対応で臨むべきだと思います。そして利用者のみなさんも、最低ランクの星ひとつの意見にこそ“真実の声”が宿っているとの認識を持った方が良いでしょう。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。

閉じる