精子介し子供が糖尿病体質に? 父の食生活の乱れが影響

2016.3.12 17:01

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と関係の深い生活習慣病は、遺伝的な因子もさることながら、主に食べ過ぎ・運動不足といった本人の後天的な環境因子(生活習慣)が引き金になる。だが、父親が乱れた食生活をしていると、生まれた子供にも食生活などの“細胞の記憶”が伝わり、生活習慣病を発症しやすくなるとする論文が最近、海外で相次ぎ発表されている。専門家は「父親の食生活が将来の子供の健康に影響を与える可能性がある」と話している。(山本雅人)

 動物実験で報告

 論文に注目するのは、国立国際医療研究センター総長の春日雅人氏。糖尿病の研究者でインスリンの作用メカニズムを世界に先駆けて解明、欧州糖尿病学会のクロード・ベルナール賞を日本人でただ一人受賞した経歴を持つ。

 目を留めた研究の一つが2014年に米科学アカデミー紀要に掲載された中国人らの研究グループによる論文「父親による世代を超えた糖尿病の誘発」だという。

 それによると、離乳後のマウスの雄を、通常の食事の群と、メタボと同じような状態になる高脂肪の食事の群に分け飼育。さらに高脂肪食群には軽度の糖尿病状態になる薬を途中で追加投与し、それぞれの群を生後16週間まで育てた。

 その上で、それぞれの群の雄を正常な雌と交配。生まれた子供を同期間育ててから血糖値を測定したところ、高脂肪食群の雄から生まれた方の数値が有意に高かったという。

 両群の子供のマウスには高脂肪食を与えていなかった。春日総長はこの点をとらえ、「父親の代の高脂肪食の影響がすぐ次の代に遺伝情報として伝わったことを示すものだ」と分析する。研究によると、父親の精子を通じて子供に伝わった可能性が高いという。

 新たな環境因子

 胎児期に胎盤を通じて母親とつながっていることから、母親の影響に関する論文はすでに膨大な数が発表されている。例えば、過度のダイエットを行った女性から生まれた低体重の子は、メタボや生活習慣病になりやすいことは比較的よく知られている。

 こうした中、最近は父親の影響を示す論文が欧米でも増えつつある。いずれもマウスでの実験で、父親に高脂肪食を与え続けると、生まれた雌の子のインスリン分泌が悪くなる▽父親に低タンパク食を与え続けると、生まれた子が脂肪肝になりやすくなる-といった研究だ。

 春日総長は1月に東京都内で開かれた日本成人病(生活習慣病)学会で特別講演し、父親の食生活が子供の生活習慣病に影響するという、こうした研究の潮流を報告した。これまで2型糖尿病などは先天的な遺伝と生活習慣によって発症することが判明していたが、これに新たな原因が加わることになる。

 春日総長は「父親の食生活の内容も重視すべき時代がもうすぐ来るかもしれない」と、今後の研究の進展を注視している。

 ■「第3の因子」解明へ

 父親の食生活が子供の生活習慣病の発症リスクになり得るという研究は、エピジェネティクス(後成遺伝学)という新たな研究領域で説明される。従来は、「先天的な遺伝と後天的な環境という要因が単独ないし、重なることによって生活習慣病が発症する」とされてきた。遺伝子に変異があれば子供に伝わる一方、親の環境の影響は本人一代限りと思われていた。それがエピジェネティクスの研究によって、第3の「遺伝子と環境との間」のメカニズムが解明されつつある。

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