個性派本屋さん、韓国でブレイク 新世代の店主が変える出版界

2017.7.17 19:00

 韓国は空前の本屋ブームだそうだ。街に個性的な書店が続々と誕生し、ソウルではこの1、2年で150軒もの出店ラッシュに。そんな状況を取材した『本の未来を探す旅 ソウル』内沼晋太郎、綾女欣伸編著(朝日出版社・2300円+税)が刊行され、韓国から新世代の書店主3人が来日してトークショーを開いた。隣国の出版界でいったい何が起きているのか!?

 「本はどこで買っても同じなので、アイデアがないと生き残れません。私は、本を楽しむ文化空間として店を開きました。街の本屋さんが減っている時期だったので、逆にメディアで取り上げてもらえて、広く関心を持ってもらえた」

 2011年からソウルの学生街でセレクト書店「サンクスブックス」を経営するイ・ギソプさん(48)。いまでは本屋ブームの嚆矢(こうし)とされる存在だ。

 イさんによると、韓国では本を3~4割引するネット販売に押されて街の小さな書店がどんどん廃業していった。しかし3年前に書籍の値引きがより厳しく制限されるようになって、状況が変わったのだという。いろいろなコンセプトの本屋が相次いで登場。その活況は同書を読めば分かるのだが〈詩集だけを売る本屋、猫本を取揃(とりそろ)える本屋、読書会に特化した本屋と、そのどれもが個性的〉。来日した3人の店も人気を集めている。

 キム・ジンヤンさん(36)の「ブックバイブック」は、ビールやコーヒーが飲める本屋。「お酒を飲みながらだと感情豊かに読めますよ」とジョークを飛ばす。飲食ができるだけでなく、さまざまなイベントを展開。なかでも面白い取り組みは「本のしっぽ」。客に書いてもらった書評をラミネート加工して、本にしおりのように挟んでいる。書いたらコーヒー1杯が無料。「ネット書店のコメント欄のようなもの」だという。

 たった1人のための本を選ぶ“カウンセリング書店”を開店したのはジョン・ジヘさん(29)。日本と韓国を結ぶブック・コーディネーターとして活動していたが、一念発起して「私的な書店」を開いた。完全予約制で、一対一で1時間かけて話を聞き、その人にぴったりだと思う本を選んで、手紙をつけて送る。オープン9カ月で250人が利用。「本に関心のない人にも本の面白さを伝えたい」と話す。

 新世代の書店主には、日本の本屋から学んだと話す人が多い。著者の内沼さんは東京・下北沢の本屋「B&B」のオーナーだが、キムさんは「ビールが飲めるというアイデアはB&Bから刺激を受けた」と話す。ジョンさんは、日本全国の本屋をくまなく巡った事情通だ。

 イさんは、本を巡る環境を変えたいと熱く語った。「モバイル時代で、本が売れなくなっているのは日本も韓国も同じ。でも本屋さんが変わってきたことで、出版社が特定の本屋と組んで限定版の本を売ったり、新しい出版のかたちも出てきている」

 日本の本屋から学んだという韓国の本屋から、改めて私たちが学ぶことは多そうだ。(篠原知存)

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