障害者らが米作り「自然栽培パーティ」 農業と福祉、企業をつなぐ

2017.10.19 18:11

 障害者の米作りなどを支援し、農業と福祉、企業の連携を目指す団体「自然栽培パーティ」(本部・松山市)の取り組みが全国に広がっている。自然栽培を行う福祉施設を増やすことで、農業の担い手不足を解消する一助になればという思いもあり、企業もその応援の輪に加わる取り組みが注目されている。(村島有紀)

カシオが参加

 「取れたぞー。ひも持ってきて!」

 収穫の秋。精密機械メーカー、カシオ計算機(東京都渋谷区)のボランティア社員やその家族44人が長靴を履き、鎌を持って慣れない手つきで稲を刈った。前橋市青梨子の障害福祉サービス事業所「菜の花」が、無農薬で栽培するコシヒカリの田んぼ。早朝、東京都内をバスで出発した同社の社員らは、同事業所の利用者約20人と協力しながら午後1時頃まで稲を刈り、天日で干す「はざかけ」と呼ばれる作業を行った。

 カシオ計算機は「菜の花」が栽培する自然栽培米の「一反パートナー」。1反(約1千平方メートル)当たりの収穫米を出来高にかかわらず55万円で買い取ることで支援する。「一反パートナー」は、障害者向け雑誌「コトノネ」が発案し、昨年から企業を中心に募集。カシオ計算機が第1号のパートナーとなった。

 できたコメは、ボランティアとして田植えや収穫作業に参加した社員らに配るほか、取引先への営業ツールなどとして活用する予定だ。

 同社で事務局を務める松井民雄さん(52)は「今まで(営業の)数字数字でボランティアをしたことはなかった。直接人のために役立つ活動をすることで、自分も癒やされる」と語る。

「収入が安定」

 「菜の花」には、知的障害や精神障害のある20人が通いながら、農業やパソコンの解体作業などを行っている。1人の月当たりの平均賃金は約3万8千円で、福祉施設としては“高給”だ。昨年から「自然栽培パーティ」に参加している。今年は約1町でコシヒカリを作付けし、そのうち2反をカシオ計算機とパートナー契約した。「菜の花」の施設長、小淵久徳さん(43)は「購入を予約されると収入が安定し、それだけ利用者へ安定した賃金が支払える」と歓迎する。

 利用者の多くは自宅と事業所を往復する日々で、外部の人との新たな出会いが少ない。この収穫作業や作業後の昼食会に参加することで、初対面の人と触れあう機会にもなる。利用者の一人、小林潤さん(21)は、カシオ計算機のエンジニアの男性(50)と話し込み、「(農作業の)はざかけはつらかったけど、好きなゲームの話ができたのが楽しかった」と笑顔を見せた。

耕作放棄地を活用

 農林水産省によると、全国の耕作放棄地は年々増加し、平成27年には42万3千ヘクタールに及ぶ。「自然栽培パーティ」によると、同団体に参加する福祉施設の農地で、農作業に従事する障害者は542人。休耕田などを利用した自然栽培農地面積は約34万平方メートルになった(いずれも今年6月末現在)。

 2020年の東京五輪・パラリンピックで、選手村の調達基準を満たした食材として採用されるのが、目標の一つでもある。「コトノネ」の川口修司さん(52)は「一反パートナーを増やし、障害者による自然栽培の農地を増やしていきたい」と話していた。

 ■自然栽培パーティ

 正式名称は一般社団法人「農福連携自然栽培パーティ全国協議会」。平成27年、公益財団法人ヤマト福祉財団の資金援助を得てスタート。「1万ヘクタールの休耕地を農場に戻し、障害者が自然栽培で、ニッポンを健康に」を合言葉に、農業、福祉、企業の連携を進める。脳性マヒの三つ子を育てる松山市の佐伯康人さんが代表理事。9月22日現在で、全国で70の福祉施設が農業に取り組んでいる。

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