困った部下をうまく動かす「5つの鉄則」 優秀なリーダーはこう対処する

2017.12.10 13:10

 「困った部下」にどう対処すればいいか。組織・人事コンサルタントの麻野進氏は「リーダーの役割は、組織のミッションを果たすこと。それなのに、『部下を育てる』ことに頭が行きすぎている人が多い」と指摘する。リーダーは「困った部下」よりも「優秀な部下」に時間をかけるべきなのだ。それでは具体的にどうすべきか。優秀なリーダーたちが実践している「5つの鉄則」とは--。

 ※本稿は麻野進『最高のリーダーが実践している「任せる技術」』(ぱる出版)の第3章「『任せる技術』が身につく5つのステップ」を再編集したものです。

 【鉄則1】部下の育成より、任せた仕事の完遂を最優先に

 リーダーに求められているのは、「任された(期待された)成果を出すこと」である。そして、その目的である成果を出し続けるために、部下を育成するという手段を講じる。あくまで部下育成は成果をあげるための手段であって、目的ではない。

 冷静にその部下の能力・経験レベルを見極め、それに合った、あるいはそれよりも低いレベルの仕事を任せるのが原則となる。部下の成長を願い、成果が出るまで我慢して使い続けることができるのが理想だが、リーダーの心と予算に余裕がなければ、リーダー自身が疲弊してしまう。

 仕事の任せ方としては、チャレンジ要素を排除し、「確実に」できるレベルの仕事を与えることになる。それがたとえ、組織内における位置づけと比べて小さな仕事であったとしてもだ。

 そしてもうひとつ大事なのが、レベルに合った仕事を任せていることを、はっきりと本人に伝えることだ。もし困った部下が「主任」という立場だとすると、主任に求められる仕事や業務目標を与え、その働きぶりを評価する。これが一般的な人事評価制度だ。だが、明らかに主任としての役割を果たすことができないのであれば、できる(できそう)な仕事を与えなければ、組織全体の労働生産性が落ちてしまう。

 つまりリーダーには、余計な管理工数(頻繁な仕事のチェックや指導)がかかり、部下本人には余計な工数(できない業務に取り組むことによる無駄な努力)が発生するばかりか、リーダーが負わなければならない(失敗の)リスクが増大する。

 【鉄則2】100点満点の成果を期待しない

 いくら成果のレベルを下げたからといって、困った部下のアウトプットを100%信用してはいけない。

 もちろん部下に「信用できない」などと言ってはいけないが、あなたはこれまで幾度となく痛い目に遭ってきたはずだ。 60点~70点の成果でもチームが回るよう、あらかじめバックアッププランを考えておくことが現実的な対応と言える。

 「困った部下に期待するな」と言っているわけではない。できのよろしくない部下や後輩は、近くにいるだけでイライラしがちだが、それは本人の力量を超えた過剰期待をしているからに他ならない。

 「時間を取って教えたんだからきちんとこなしてほしい」

 「もうベテランなんだから、それくらいはやってほしい」

 「もはや新人じゃないんだから、それくらいは気を利かせてほしい」

 こういう期待は普通にあるものだが、次のような捉え方をするように努めたい。

 まず、世の中には学歴は立派でも「仕事ができない人」が一定数は職場にいることを理解するスタンスが必要だ。学歴はあくまで入試で高得点を取る能力が高いにすぎない。そもそも人間の特性はそんなに簡単に変わらないことを認めることだ。

 少なくとも「成長」には時間がかかることを前提にしないと、新米が入ってくるたびにガッカリすることになる。また「いい人と思われたい」という承認欲求は捨てることも重要だ。誰でも人から好かれたいと思っているものだが、イライラする相手に好かれようとする行為はさらなるストレスを生むことになる。「空気が読めない人」も一定数は職場にいることも理解することが必要だ。

 これからはダイバーシティー(男女や人種などを含めた多様性を尊重する)マネジメントの時代だといわれるが、日本人であろうが外国人であろうが、仕事ができない人であろうが、仕事を任せるときは、明確に分かるように伝えることはますます重要になる。

 これと関連するが「常識を押し付けない」ように心掛けたい。「挨拶(あいさつ)もまともにしないで、先に帰るやつがあるか!」などと言ってもしょうがない。大事なことはきちんと伝えないといけないが、「まあいいか」と思えるレベルであれば、目くじらを立てなくてもいい。

 【鉄則3】改善の機会を一度は与える

 「ただし……」である。その人の成長や復活を諦めるのはまだ早い。

 過剰な期待は組織にとっても、本人にとっても不幸な結果を招くことになるが、周りも諦めて無視するようになると、困った部下はますます困った存在になってしまう。パフォーマンスが悪いからといって、会社はその人を特別扱いしてくれないし、人件費がかかっている限りは、「何とかうまく使ってくれ! それがリーダーであるあなたの役割だ」と言われるのだ。

 ただ、期待値を下げたまま放置してしまうと、困った社員は下げてもらった期待値にも届かない状態に陥る可能性が高い。「単に能力が足りないだけなのか」「やる気をなくしたきっかけは何だったのか」「前の上司との間に何があったのか」「自信をなくしているのか」「セルフイメージが低いのか」など、パフォーマンスが発揮できない本人なりの原因が存在するはずだ。

 そうなった要因を具体的に聞いたり、どうすれば改善できるかを話し合ったり、相談に乗る時間は確保しておきたい。もしかしたら今回任せた仕事が行動や態度の改善につながるきっかけになることも十分にある。

 統計的なものはないのだが、企業人事の方々の話を伺っていると、上司から“ダメ出し”をされ続けている社員でも、「上司が変われば復活する社員が2割いる」という意見が多く聞かれる。2割という数字は微妙だが、求人サイトのリクナビNEXTによると「転職理由と退職理由の本音ランキング」では常に「上司との人間関係」が1位になっているように、ローパフォーマンスの原因が上司との相性の可能性も高い。

 上司としては、期待値は下げたとしても、改善の可能性やきっかけについては、常日頃から意識しておきたい。

 ただし、見極めは迅速にしなければならない。改善が難しいと判断すれば、任せた仕事の成功を第一に考えるよう切り替えなければならない。

 【鉄則4】困った社員の指導やフォローに時間をかけない

 多くのリーダーは、困った社員に多くの時間をかけている。真面目な部下想いのリーダーほどその傾向が強い。部下育成に対する強い想いを否定するものではないが、そういうリーダー初心者は、新任管理職研修で習ったマネジメントのカテゴリーを満遍なくやろうとする。組織の業績管理、自身の担当業務、部下指導、部下育成、コンプライアンス……やるべきことはたくさんあるので、結局どれも消化不良のまま初年度は過ぎていく。

 そんな限られた時間しかないにもかかわらず、部下指導の時間配分では、就任当初は平等に割いていても、パフォーマンスの低い困った社員により多くの時間を使ってしまうことになる。さらに伸びてほしい優秀な部下に対しては、放置しておいてもそれなりのパフォーマンスを出すので、あまり時間はかけない。

 しかし、本来は逆であるべきだ。期待値の高い優秀な部下ほど多くの時間をかけてでも早くリーダーの補佐的な立場になってもらい、より高度な業務、高いミッションを持ってもらう必要がある。

 人事評価者研修では、「評価面談には最低1時間くらいはかけましょう」という話をするが、2時間かける人もいれば15分で終わる部下がいてもいい。それは仕事ができる・できないの順番ではなく、組織マネジメントに照らして、いま誰に時間をかけるべきかをその都度しっかりと考えることが重要だ。

 【鉄則5】任せた結果は人事評価にしっかりと反映

 任せた仕事がどうなったかについては、結果がどうであれ本人にきちんとフィードバックしなければならない。

 うまくいったのなら、良かった点をフィードバックする。そうでなければ課題をフィードバックする。「任せた仕事がうまくいかなかった」「やむなく仕事を他者が引き取った」「担当を変えざるを得なかった」などの場合も、本人へのフィードバックを忘れてはならない。任せられる状態になっていない部下自身の責任をきちんと伝えることが大前提だ。

 ここでリーダーが犯しがちなミスは、この「責任」を理解させるプロセスなしに、部下のいまのレベルに合った新たな業務目標をすぐに設定してしまうことだ。

 目標管理の概念を導入している企業の多くは、期初に立てた業務目標の達成度で成績をつける仕組みになっている(最終の評価結果はさまざまな調整が入るが)。本来の役割に求められている責任を果たしていないにもかかわらず、上司の想いが伝わらないばかりか、制度運用ルールである「目標達成度」のみに部下の関心が向かってしまう。「目標を達成したのに、評価が低い!」などと、部下の不満をあおることにもなりかねない。

 組織のリソース配分や人材育成、中期的な構想などは、個々の部下の状態から現実的な柔軟な対応をすることになるが、部下の処遇を決める人事評価は公平・公正な運用をしなければならない。つまり、その社員のいまのレベルと人事評価(等級)で求められる責任とのギャップをきちんと評価結果に反映しなければならない。その等級に求められている責任を果たしていないのに、目標達成率だけで良い点数をつけないという点に注意を払いたい。

 麻野進(あさの・すすむ)

 組織・人事戦略コンサルタント。株式会社パルトネール代表取締役。1987年関西学院大学法学部政治学科卒。国内系大手コンサルティングファーム、人事・組織コンサルティングファーム取締役、大手SI系コンサルティングファーム シニアマネージャーを経て現職。著書に『部下なし管理職が生き残る51の方法』(東洋経済新報社)、『ポジティブな人生を送るために50歳からやっておきたい51のこと』(かんき出版)など多数。

 (組織・人事戦略コンサルタント 麻野 進)

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