信者の「落書き」に光明? ぼやきにイラスト…滋賀のお寺が観光資源として活用

2018.8.16 06:40

 江戸時代から明治時代にかけて巡礼で立ち寄った信者が壁に書いた落書きが残り、「らくがき寺」とされる日蓮宗の妙立寺(みょうりゅうじ)(滋賀県長浜市加田町)で、落書きを観光資源として売り出そうという試みが始まっている。寺はこれまで原則非公開だった落書きの公開を始め、地元の観光ガイドも観光案内コースに採用。観光資源化を目指す。

 「落書きからは、信者の暮らしぶりや思いが分かります」。8日、長浜観光ボランタリーガイド協会が開いたウオーキングツアーの参加者に大西寛明住職(60)が語りかけた。

 落書きが残されているのは、山門脇にある小屋の室内にある壁(縦2メートル、横2.8メートル)や柱。日蓮宗の信者は「千箇寺詣(せんがじもうで)」として各地の寺を巡礼する風習があり、小屋は信者の寝泊まりのために提供されていた。同寺は北陸、東海、西日本などから訪れる信者の拠点になっていたという。

 宿泊の際、信者たちは思い思いの落書きを残していった。日蓮宗の「お題目」など信仰をうかがわせるもの以外にも、ちょんまげ頭の男や町火消しの纏(まとい)を描いたイラストなどユニークな「作品」が、墨でびっしりと書かれている。

 中には「この寺では布団を貸してもらえなかった」などとぼやいた書きつけも。天保、弘化など江戸時代のほか明治時代の年号、九州や大阪、東北など宿泊者の出身地と名前が残る。

 他の日蓮宗の寺でも同様の落書きがあったとされるが、保存されている例は珍しいという。身延山大学仏教学部長の望月真澄教授(60)は「これほど大きな落書きが残る寺は他にはない。生きた信仰の足跡がわかる貴重な仏教民俗資料だ」と話す。

 落書きは原則公開していなかったが、長浜観光ボランタリーガイド協会が数年前に行った観光案内の際に立ち寄ったところ好評。正式な観光コースに取り入れようと寺側と協議していた。小屋は物置として使われていたが、室内を整理するなどし、今月からコースに取り入れた。

 8日のウオーキングツアーに訪れた野洲市小篠原の男性(70)は「初めて見た。面白い落書きで、よく残ったものだ」と驚いていた。

 大西住職は「思い思いに書かれた落書きの歴史を見てもらえたら」と話す。当面、同協会のツアー予定はないが、予約制で個別に公開するという。問い合わせは同寺(電)0749・50・3256。

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