和魂洋才で「世界が憧れるウイスキー」目指す 山形・遊佐蒸溜所の挑戦

2019.7.6 09:07

 【ONESTORY】世界的に人気が高まる一方のジャパニーズ・ウイスキー。それに応えるかのように、日本各地に土地ごとの風土と歴史を反映させたウイスキー蒸溜所が誕生しつつあります。

東北では3ヶ所め、注目のウイスキー蒸溜所

 2018年の10月に稼動した『遊佐蒸溜所』も、そんな新鋭のひとつ。とはいえ、その母体となっているのは、1950年に酒田・飽海(あくみ)地区の日本酒メーカー9社が設立した『株式会社金龍』です。属する9社は、いずれも高い技術と品質を誇る老舗たち。日本で最も権威ある日本酒の品評会「全国新酒鑑評会」で金賞を連続受賞したり、世界最大規模のワイン品評会IWCの「SAKE部門」でトロフィーを受賞したりするなど、その実力は世界的にも認められています。

 そんな「品質本位」の精神と、「最高の酒を造る」という情熱を受け継いだ『遊佐蒸溜所』。そこで醸されつつあるのは、いったいどんなウイスキーなのでしょうか?

老舗の地位に安住せずに、時代を見据えて大胆に挑戦

 『遊佐蒸溜所』の母体である『株式会社金龍』は、日本酒用の原料アルコールを蔵元に提供する会社としてスタートしました。それと同時に焼酎の製造と販売も開始し、以来、山形県で唯一の焼酎専門メーカーとして親しまれてきました。

 しかし、年々進む過疎化の影響で、30年後には山形県の人口が30%以上も減少するとの予測が浮上。そんな厳しい未来を直視して、新たな切り札とすべくウイスキー業界への参入を決めたのです。

 幸い、山形県はウイスキー造りに適した地でした。

 ウイスキー造りには、良質かつ豊富な水と、清澄かつ冷涼な空気、そしてほどよい湿度が欠かせません。それらの条件に従って選ばれた遊佐町は、山形県の北方に位置する名峰・鳥海山(ちょうかいさん)の麓にあり、国土交通省が認定する『水の郷百選』にも選ばれるなど、町のそこかしこに美しい湧水が溢れる水と空気の理想郷です。

 四季折々に表情を変える、豊かな自然に恵まれた地。そんな遊佐町から、日本酒造りの経験を生かしつつも、本場スコットランドの伝統製法に準じたウイスキーを製造・発信していくそうです。

「世界にひとつのジャパニーズ・ウイスキー」を目指す

 『遊佐蒸溜所』のウイスキー造りのコンセプトは、「Tiny(ちっぽけな)、Lovely(かわいい)、Authentic(本物の)、Supreme(最高の)」だそうです。これらの頭文字をとって「TLAS(トラス)」と呼称し、小規模ながらも本格的かつ最高級の品質を目指しています。

 蒸溜所の面積は約620㎡、敷地面積は約4,550㎡と、ウイスキー蒸溜所としてはミニマム。ですが、だからこそ隅々まで目が行き届き、品質に責任が持てるのです。

 そんな日本らしい丁寧な「ものづくり」にこだわりつつも、本場スコットランドの伝統的な工程・原料・貯蔵方法を踏襲。焼酎や日本酒造りで培った「酒づくり」の精神で、細部までこだわった『遊佐蒸溜所』ならではの味を探求しています。

 そんなストイックさを象徴するかのように、製造スタッフは3名という少数精鋭。うち2名は女性で、一人ひとりが重要な役割を担っているそうです。更に全員が若年層という、世界的にもまれな構成。新たな若い力で、既存の色に染まらないウイスキーを醸しています。

焦らずじっくりと、最善を目指す

 『遊佐蒸溜所』が目指すのは、あくまで最善かつ最高。そのため蒸溜中のウイスキーは、シングルモルト以上でお披露目することを予定しているそうです。ニューポットやニューボーンは販売せずに、最低でも3年は熟成。蒸溜所の稼動が2018年の秋のため、最短のお披露目で2021年の秋となります。味と品質に納得がいかない場合は、更にプラス2年して2023年の秋の発表も見込んでいるそうです。

 自ら定めた「TLAS」のコンセプトにそむかず、本格的かつ最高級のウイスキーを志向。本場スコットランドの伝統的な工程・原料・貯蔵方法を踏襲しつつも、それによって醸されるのは、あくまで山形発のジャパニーズ・ウイスキーです。

 「神は細部に宿る」というものづくりの精神と、「MADE IN JAPAN」であることの誇り。それを忘れずに真摯(しんし)に取り組み、世界で評価されることを目標としています。

 実際、そのように先駆けた他のジャパニーズ・ウイスキー蒸溜所も、高い評価を得ています。『遊佐蒸溜所』がそれらの蒸溜所と並んで評価されるのも、そう遠い未来ではないでしょう。

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