【5時から作家塾】清掃からレクリエーションへ 欧州で拡大、「お金を払ってごみ拾い」ツアー

2019.9.6 07:00

 ヨーロッパで拡大する「観光客による清掃ツアー」

 最近、ヨーロッパの主に観光都市で、街や運河を清掃する観光ツアーが人気を博している。

 参加費は有料だったり無料だったりまちまちだが、参加者は地元のボランティアなどではなく観光客がほとんどで、社会活動ではなく純粋に観光として、レクリエーションとして楽しんでいる。

 清掃活動をレクリエーションたらしめる各社の工夫や文化的背景は何か。日本において発展する可能性は?

 急成長中のデンマーク「グリーン・カヤック」

 現在そういったツアーを運営する欧州の会社の中で現在最も急成長中なもののひとつに、デンマーク発の「グリーン・カヤック」がある。

 同名のNGOが2017年にコペンハーゲンとオーフスの二都市で始めたこのサービスは、運河のゴミを拾いその体験をSNSでシェアすることを条件に、初心者でも操縦できるカヤックと、安全なカヤッキングに必要なその他の装備、ゴミ拾いのための道具を無料で貸してもらえるというもの。

 まずは無料でカヤックを体験できることに加え、優雅だがありがちな運河クルーズで見るものとはひと味違った運河の景色をじっくり見ることができ、運河やその先にある海をきれいにしたという充実感を味わえる上にSNS映えもばっちりとあって人気を博し、設立からわずか2年で数千人が参加。現在までにアイルランド、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンなどに拡大し、今までに水路から回収したゴミは各国で合計18トンというから観光半分の人海戦術もあなどれない。

 ビジネスとして躍進中の「プラスチック・ホエール」

 一方、ゴミを集めるツアーにあろうことかけっこういいお値段の料金を課し、ビジネスとして大成功を収めているのがオランダ・アムステルダムの運河発「プラスチック・ホエール」だ。なぜ多くの観光客が、ゴミ収集にお金を出すのだろうか?

 全行程2時間半、一人あたり25ユーロの「ツアー」の気になる内容はこうだ。参加者は同社オリジナルのスタイリッシュなボートに乗り、「スキッパー」と呼ばれる案内係から挨拶を受ける。地元に詳しいスキッパーから、地元民としてのおすすめや裏情報を含む充実した観光案内を受けながら運河をクルーズし、そうする間に運河のゴミを手にしたアミで回収する。2時間のボートツアーが終わり上陸した後は、同時刻にツアーをした他のボートと回収したゴミの量を比べ、最も収穫の多かった(もしくは、『いいもの』を回収した)チームが表彰される。

 そしてここがミソなのだが、回収されたプラスチックは、同社のツアーボートに生まれ変わる。ツアーの際に乗船していたボートは、まさに以前運河を漂うゴミだったのである。

 さらに同社は今後地元の家具会社との協働でオリジナル家具ブランドを立ち上げ、利用者が自分で拾ったプラスチックゴミで作った家具を注文できるサービスを始めている。

 運河がきれいになるという充実感に加え、スキッパーからの他にはない観光案内、資源集め競争としてのゲーム的要素の楽しさ、更にその集めたゴミがサステイナブルなボートや家具に生まれ変わるという生産性という、一粒で4度も5度もおいしい点が支持を得て、旅行評価サイトのトリップアドバイザーでも、5点満点中平均4.9点という驚異の高評価を得ている。

 特に学校の遠足や子連れ旅行に人気で、とても楽しい上に運河を漂うゴミを間近で目にし、自分の手で拾う体験は子どもたちに対して「百聞は一見に如かず」的な教育効果があったという書き込みが目立つ。

 同社が特におすすめしている利用は社員旅行に取り入れることで、「私たちが提供するプラスチック・フィッシング競争は、団結力を高めます。ぜひ会社の皆様で運河のゴミを回収し、一体感を味わい、一緒に『収穫』したプラスチックから作られたオフィス家具を愛用してください」とPRに余念がない。

 これからは「サステナブル」をいかにビジネスにしていくかが世界で課題になっていくことが予想されるが、このプラスチック・ホエールは「エコ」も「金儲け」も昔から大好物としてきたオランダならではの好事例と言えるだろう。

 日本は「富士山」が有名 欧州「観光清掃ツアー」発展の可能性は

 同様の主旨のツアーは日本国内にもいくつかあり、最も有名なものは旅行会社や新聞社が東京からのバスと清掃後のトークショーなどを含めて毎年企画する「富士山清掃ツアー」だろう。他に1945年の空襲後から綿々と続く皇居周辺の清掃活動である「皇居勤労奉仕」もほぼ毎月開催されているし、アムステルダムのような「ごみ釣りクルーズ」も、実は都内で実施されている。もっと小規模な自治体主導の「清掃ツアー」は各地に多数存在し、主に地元の住民などが社会奉仕として参加し街をきれいにしている。

 日本におけるビジネスとしての可能性は

 とはいえ、このような「清掃ツアー」が旅行の一工程として人気を博すには、欧州人の旅行スタイルが背景にある。彼らは夏休みなら最低2週間、長い人なら6週間ほど取って、ゆっくりと「バカンス」を楽しむ。そしてその間もキッチン付きのコテージなどで普段通りの生活をし、気が向けば近所でやっている活動に参加する。それが清掃ツアーであっても楽しそうなら選択肢となり得るだろう。一方私たち日本人はそんなに休みは取れないし、常日頃世のため人のためによく働いているのだから、旅行中くらいは何もしないで羽を伸ばしたい。限られた旅の時間を「清掃」に割きたい人はそう多くないだろう。

 ただ、可能性はあると思う。そもそも最近よく海外ニュースで取り上げられるように、日本人は掃除好きだ。特に業者が学校の掃除をするのが主流である海外において、「日本の子どもたちは学校の掃除を自分たちでするんだって!それによって自分たちがいつも使わせてもらっている場所に感謝することや、きれいに使うことを学ぶらしいよ!」と紹介&絶賛されているのはもう目にタコができるほど(?)見たし、サッカーの試合の後のサポーターによる清掃は世界を驚愕させたのみならず、後に続く外国のサポーターの輪も広がりつつある。

 また、日本人の旅のスタイルも今後変わっていくかもしれない。特にミレニアル以降の若い世代は、旅において贅沢したり、お約束のスポットを観ることよりも、体験やレアなものを見出すことを好むという。

 紹介した欧州の例のように、観光案内やゲームと完全に一体化させて楽しい活動にしてしまうのもいいが、やはりこれからの時代「お得感」「ここにしかない特別感」のほうが強みがあるかもしれない。例えばデンマークのカヤックのように参加者は無料で何かを利用できるとか、拾ってきたゴミの量に応じて何かが割引になるとか、人気キャラとコラボしたグッズを参加者に配布するとか、普段は見られない人気スポットのバックステージをちょっとだけ見せるとか。もちろん学校と連携した教育的な活動として最適なのは言うまでもない。

 今後重要性がどんどん高まっていくであろうサーキュラーエコノミー構築の基本は「ゴミから富を生み出す」こと。こんな楽しいアプローチの充実にも期待したい。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))

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5時から作家塾(R)

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編集ディレクター&ライター集団

1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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