【鉄道業界インサイド】“脱切符化”が加速する 券面にQRコード、回数券からポイント還元の時代へ

2020.12.24 06:00

90年前のアメリカ製“自動改札機”

 2020年は首都圏で本格的に自動改札機が導入されて30周年の節目の年であった。改札で駅員が切符にハサミを入れる光景は、30代でもほとんど記憶にないかもしれない。それどころか、ICカード乗車券がなかった頃の光景すら急速に過去のものになろうとしている。

 自動改札機の歴史をひもとくと、古くは1927年に開業した日本初の地下鉄(現在の東京メトロ銀座線)で、10銭硬貨を直接投入してバーを回すと1人が通過できるというアメリカ製自動改札機が導入されている。現在のような乗車券を読み取る自動改札機は、日本では63年に近鉄技術研究所が研究開発に着手し、66年に近鉄の大阪阿部野橋駅で実地試験を行ったことに始まる。

 その後、磁気を使ってデータを記録する自動改札機が開発されると、71年から73年にかけて東急電鉄、札幌市交通局、阪神電鉄、横浜市交通局、南海電鉄、大阪市交通局(現・Osaka Metro)などの新規開業路線を中心に本格導入され、80年頃までに関西の主要な私鉄、地下鉄では導入がほぼ完了した。首都圏で自動改札機の導入が遅れたのは、当時の磁気乗車券は記録できる容量に限りがあり、首都圏の複雑な路線網には対応できなかったからだ。

 80年代後半になってそれまでより多くのデータを記録できる磁気券が開発され、ようやく首都圏でも自動改札機の導入が可能になった。90年にJR東日本と営団地下鉄(現・東京メトロ)が自動改札機の導入を開始すると、すぐに大手私鉄にも広まり、それまで多くの人手を要した改札業務の省力化に成功した。

 自動改札機の導入により鉄道サービスも姿を変えていく。1991年にはJR東日本が磁気式プリペイド乗車カードの「イオカード」、96年に営団地下鉄と東京都交通局の都営地下鉄が「SFメトロカード」を導入し、乗車券を買わずに乗車できるサービスを開始した。続いて2001年に「Suica」、07年に「PASMO」が導入され、ICカードの時代に突入する。

 これらサービスの普及により切符を買う手間がなくなり、券売機の台数を削減できるようになった。また磁気乗車券に対応した自動改札機は、投入された切符を搬送する装置や、磁気情報の読み込み・書き込みを行う装置など精密機器の塊で、1機あたり1000万円ともいわれる高価な代物だ。これに対してICカードの読み取り部は安価であるため、IC専用改札機の導入は大幅なコストダウンを可能にした。

 現在、首都圏のICカード利用率は9割を超えており、紙の切符を使っているのは回数券利用者と長距離利用者、めったに鉄道を利用しないためICカードを持っていない人に限られている。しかし、こうした光景も10年もしないうちに様変わりするかもしれない。

運賃の10%をポイント還元

 JR東日本は来年3月1日からSuicaを使って在来線の同一運賃区間(特定の駅間ではなく、運賃が同額の区間)に月10回乗った場合、乗車1回分の運賃分のポイントが還元されるサービスを開始すると発表した。また11回目以降は毎回、運賃の10%がポイント還元される。実質的に回数券を代替するサービスであり、今後の“脱切符化”に向けた一歩と言えるだろう。

 また新幹線利用者についても、予約サイト「えきねっと」で乗車券・特急券を予約、購入時に利用するICカードを登録しておくと、ICカードでタッチするだけで改札を通過できる「新幹線eチケットサービス」を今年3月14日から開始している。今後は在来線特急にもサービスを拡大する方針といい、長距離利用者もICカードを利用する機会が増えるだろう。

 そして残る紙の切符は、券面にQRコードを印字したQRコード乗車券に置き換わっていくことになりそうだ。QRコード乗車券は自動改札機に投入するのではなく、読み取り部にかざして使用する。そのため、IC専用改札機と同様に自動改札機の構造を大幅に簡略化でき、コストダウンにつながる上、券売機でなくとも切符を発行できるようになるというメリットがある。

 鉄道各社はコロナ禍で大幅な赤字を計上し、今後の経営の在り方を模索している最中だ。持続可能な鉄道サービスの実現には、駅オペレーションの省力化とコストダウンは避けては通れない道である。今後、自動改札機をめぐる変化はますます加速していくことになるだろう。

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枝久保達也(えだくぼ・たつや)

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鉄道ライター
都市交通史研究家

1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら

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