歌舞伎と眼鏡。異色の組み合わせを実現させ、平成の“鼈甲(べっこう)”のくしを生み出そうとしている女性がいる。
両者を結びつけたのは「伝統芸能の道具ラボ」(www.dogulab.com)を主宰する田村民子さん(43)。女形の鬘(かつら)に欠かせない、飾り用のくしやかんざしの素材である鼈甲はワシントン条約(絶滅のおそれにある野生動植物の国際取引に関する条約)で輸出入が規制されているため、現在は樹脂のアセチロイドが使われている。しかし、その加工職人が減り、新しい“鼈甲”のくしやかんざし作りが求められていた。
田村さんは、歌舞伎の舞台を下支えする小道具や衣装など、制作現場の取材をするフリーライターだった。
「そこで知ったのは、さまざまな道具の素材や技術が、危機的な状況にあるということ。そこで個人でできることから始めることにしました」
2009年に「伝統芸能の道具ラボ」を立ち上げ、道具類を生物学の絶滅危惧種になぞらえ、ネット上で現状を報告。トヨタ財団の助成も得て、職人の後継者支援や制作現場と新たな職人との橋渡しをしてきた。田村さんのネットワークから、髪を結う床山と京都の絞り職人が出会い、「鹿の子」と呼ばれる特殊な布の髪飾りも復元できた。