“鼈甲”は鹿の子に続くプロジェクト。田村さんはアセチロイドの製造メーカーなどを訪ね、試行錯誤の末に今年3月、眼鏡枠生産日本一の福井県鯖江市の眼鏡加工会社にたどり着いた。
「眼鏡の技術が伝統文化のお役に立てるなら」。「長井」の長井正雄社長が申し出て、高度な技術を要するくしの歯をひく作業も含め、無償で試作。眼鏡づくりで培った技術が、歌舞伎の舞台に生かされることになった。
しかも、これらの活動を支えたのは、ネット上で寄付を募る「クラウドファンディング」だった。「歌舞伎のくしを復元したい」という田村さんの呼びかけに、賛同者が集まった。「伝統芸能への危機感を持ちながら、どう行動していいか分からない人がこれだけいたことがありがたかった」
ネット経由の資金が、平成の素材と職人技、伝統芸能の出合いを支え、新たな“鼈甲”のくしを生む-。平成らしい鯖江発のくしやかんざしが近いうちに、歌舞伎座の舞台にもお目見えしそうだ。(飯塚友子/SANKEI EXPRESS)