人知れず現れ、消えてゆく絶景がある。アラスカを彩る自然美の中でも、これほど人目に触れることのない風景も珍しいだろう。その壮大さも群を抜いている。北極圏を埋め尽くす紅葉だ。
8月中旬。チャーターしたセスナ機でツンドラの原野に降り立った。ここまで町から半日を要する。その飛行距離と高額な運賃とが、人を寄せつけない大きな要因となっている。
2週間のキャンプが始まった。地面はまだ薄い緑に覆われているが、漂う冷気には秋の訪れどころか冬の気配すら感じる。この凛とした清らかな空気がたまらなく好きだ。
日毎に気温が下がってゆく。夜の気温は零度を下回るようになってきた。自然は僕よりもはるかに敏感だ。7月には体のまわりを影のようにまとわりついていた蚊の大群も、今では数匹を残すのみである。8月下旬。風景が目に見えて色づき始めた。