旅は僕にとって、さまざまなものと出会い、発見をし、インスピレーションを受ける最大の活力源。もともと手仕事に興味があり、土地の力を吸い込んだ伝統的な工芸品に惹(ひ)かれてきた。また、民具などの人が使い込んだ道具への愛着も感じていた。だから旅に出ると、工芸の産地を訪ねたり、手仕事の現場に足を運んだりすることが多くなる。
今回訪れたのは、石川県加賀市山中の木地師、佐竹康宏さん(61)の「工房千樹(せんじゅ)」。漆器は、木地師、塗り師、沈金師、蒔絵(まきえ)師など、職人たちの分業制によって成り立ち、山中塗も例外ではない。その中でも木地師は、ものづくりの源流にあたり、一番バッターのようなポジション。上質でなければ始まらない。そのスタートを担う職人の覚悟のようなものに触れてみたかった。そしてもう一つ、高い技術力を磨きつつ、これまでの山中塗とは一味違う、現代の漆器を作り出している佐竹さんの秘密を覗(のぞ)いてみたいと思ったのだ。