美しき篠笛(しのぶえ)奏者と会う。山田路子さん(29)。千葉県習志野市出身。約束の午前9時。待ち合わせ場所に現れた。焦げ茶色を基調にした秋らしい装い。長い髪をすっきり後ろで束ねている。
彼女は布包みを大事そうに抱えていた。テーブルのうえにそっと置き、包みを開く。篠笛。そして能楽で用いる能管もある。わたしは初めて、篠笛をしげしげと見た。篠竹に穴を開けただけ。極めて簡素な楽器だ。
彼女が篠笛と出合ったのは、高校生のときだった。千葉県立八千代高校の和太鼓芸能集団・鼓組(こぐみ)に入部した。篠笛を手に取り、唇にあてた。
「息を吹き込むと、すっきりした甲高い音が響いた。なんともいえない快感でした」
篠笛に熱中した。部活だけでなく、東京・練馬区の能楽・一噌(いっそう)流笛方、一噌幸弘さんに師事するようになった。一噌さんは能楽の古典だけではなく、バロックやジャズにも果敢に挑戦している。師匠の姿を見て感動したという。
「日本伝統の笛で、こんな演奏ができるんだ」