学生の夢が詰まった衛星が宇宙に飛び立った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は28日午前3時37分、宇宙から降水状況を調べる全球降水観測計画「GPM」の主衛星を載せたH2Aロケット23号機を、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げた。この様子を現地で祈るように両手を握って見守ったのが、H2Aの空きスペースに相乗りした小型衛星7基を製作した各地の大学院生たちだった。打ち上げ成功に学生たちはガッツポーズを取り、オレンジ色の光が夜空を染めると、「おー」と歓声を上げた。
■「目を離したくない」
ロケットは打ち上げ約16分後に主衛星を分離した。H2A打ち上げは17回連続成功で、成功率は95.7%となった。衛星分離が確認されると、学生たちは大学で待機していた仲間に携帯電話で成功を報告。精魂を込めた衛星の宇宙空間での活躍に期待を膨らませた。
H2Aは空きスペースを利用して、全国の大学が製作した10~50センチ大の小型衛星7基も搭載。これら小型衛星も順次正常に分離されたとみられる。
重力や放射線が粘菌に与える影響を観察する衛星「TeikyoSat3」を開発した帝京大大学院1年、吉村弘之さん(23)は「肌が揺れるほどの轟音(ごうおん)と振動に驚いた」と興奮した様子。筑波大の「ITF1」開発に携わった大学院1年、嶋津龍弥さん(23)は「あの光の中に衛星があると思うと、目を離したくなかった。任務を全うしてほしい」と語った。
香川大大学院1年、古田直紀さん(23)らは「STARS2」で2つの衛星の間に張ったケーブルに電流を発生させ、軌道を変更する実験に挑む。「打ち上げ成功で安心したが、本番はこれから。さらに頑張りたい」と意気込んだ。
鹿児島大の衛星「KSAT2」は、集中豪雨や竜巻の発生を予測する研究に役立てるのが任務。大学院1年の森田大貴さん(23)は「ロケットの炎がすごくきれいで感動した」と目を輝かせ、会見では衛星の愛称を「ハヤト2」と発表した。
■異常気象予測へ
一方、主衛星は、雨雲や降水量を計測して大雨や干魃(かんばつ)などの異常気象予測につなげようと、JAXAと米航空宇宙局(NASA)が共同開発した。高さ6.5メートル、重さ約4トンで高度400キロの軌道を周回し、情報通信研究機構などが開発したレーダー「DPR」から2種類の周波数の電波を放って雨粒の反射を捉える。日本はレーダー開発費や打ち上げ費など約256億円を負担。NASAの事業費は約930億円に上った。宇宙から雨を観測し、地球温暖化による気候変動や異常気象の実態に迫り、洪水などの災害予測にもつながると期待されている。
GPM計画は、JAXAとNASAが中心に進める国際プロジェクト。主衛星と複数の副衛星を組み合わせて運用し、地球のほぼ全域を3時間ごとに観測できる。天気予報の精度向上も期待される。
■ケネディ大使も
三菱重工の宮永俊一社長(65)は、今後のH2Aの商業打ち上げについて「信頼性を大事にしながら競争力を高めるために、挑戦を続けていきたい」と話した。打ち上げにはキャロライン・ケネディ駐日米大使(56)も立ち会い「目を見張るような打ち上げだった」と述べた。