「野生ミツバチが養蜂箱の中に巣をつくったらしい。村を離れる前に一度見てきてくれないか」
東京にいる友人の野口栄一郎にクラスヌィ・ヤール村から電話をすると、そんな注文を受けた。
野口は森林保全のNGOスタッフとしてこの村に来て以来、もう十数年村人と交流を続けている。今はタイガフォーラムという新団体でエコツアーのコーディネートや現地での活動を担う稀有(けう)な男だ。最近よく日本の若者は内向きになったと聞く。だがウスリータイガの片隅で自分のできることを探し、汗を流し続ける人間もいる。東京にいながら村の養蜂箱に起きた“ニュース”をキャッチできるのは彼くらいだろう。
村で養蜂に使われているのは西洋ミツバチなのだが、在来野生種の東洋ミツバチが、まれに巣箱に入ってくることがあるという。東洋ミツバチは普通、木の洞(うろ)に巣をつくる。僕も気にしていたもののタイガでは本物の巣を見たことがなかった。