刊行後も撮影
石内は7年間、この広島での撮影を続けている。年を追うごとに少なくなる寄贈遺留品を丁寧に撮っている。そもそもは2008年に出版された『ひろしま』(2)という写真集のプロジェクトで始まった撮影だったが、その本が刊行された後も彼女は広島へ通い撮影することをやめようとしなかったのだという。彼女は、自身の中で血肉化してゆく広島との結び目を日に日に実感することができたのかもしれない。遺った物ものを凝視することでできた結節点は、強く固いものだったのだ。
群馬で生まれ、横須賀で育った石内は、あとがきで「私にとって写真を撮るというアプローチがなければ教科書的な知識で終わっていたはずだ。」と広島のことを語っている。だが、横須賀という米軍基地の街にうごめく人々や闇、つまり「街の傷跡」を撮ることから写真家人生をスタートさせた彼女が、30年の歳月を費やして「広島の傷跡」にたどり着いたことが「ひとつの道筋」だったと、今なら彼女は言い切れる。