昨年4月末、初めてパリに行った。パリでどうしても行かなければならない場所があった。ルーブル美術館だ。実は、まだモナリザを見たことがなかったのだ。
ルーブルを訪ねた。歴史のある絵画や彫刻など教科書級のものが次々と現れてくると、最初の感動は少しずつ薄れていく。モナリザにたどりつくころには、ゲンナリとした感じになっていた。
閉館時間が迫り、出口へと向かった。と、あのナポレオン広場にあるガラスのピラミッドに出た。そのとき、以前読んだ小説が脳裏をよぎった。ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」。美術の話にイエス・キリストの聖杯の謎を絡ませ、息をもつかせぬ展開を繰り広げるミステリーのなかで、この美術館はキーとなる舞台の一つだった。
聖杯とは、イエスが最後の晩餐(ばんさん)で使った杯。そんな物が残っているとされていることすら知らなかった。ほかにもイエスにまつわる品があり、それが聖遺物としてあがめられていることさえも…。
信仰の力が衰えたせいだろうか。デカルトの「方法序説」ではないが、近代になり、人は疑うことを覚えてしまった。ゆえに、自分の理解を超えた、由来の不確かな古いものには、どこか「いかがわしさ」を感じるようになった。本物か否か。