また別の女性は、経済成長著しい隣国タイに仕事を求めた。さらに、農村地域に根強く残る出稼ぎ文化が彼女らのタイ行きを後押しする。「お母さんもおばあちゃんもこの林の抜け道を使ってタイに出稼ぎに行っていたのよ」という先祖代々伝わる出入国ルートを持つ家庭まであるくらいだ。その先に潜む人身取引の危険性を認識する方が難しいかもしれない。「タイでウエートレスの仕事がある」と言われ、ようやく仕事に就ける可能性を見いだしてタイ行きの車に飛び乗った彼女。しかし、待っていたのは売春宿だった。
入国手続きに必要だとパスポートを取り上げられ、部屋に監禁され、言葉も法律もわからず助けを求める術がない中、支配者の個人的な利益のために自分の性が売られ続ける。逃れようとすれば暴力を振るわれるだけでなく、家族にまで暴力が及ぶと脅される。無防備な少女たちをあまりに残忍な奴隷支配が苦しめる。驚くべきことに、彼女たちをだまし地獄へ陥れる人身取引業者は巨大な犯罪組織だけではなく、むしろ近親者が多いという。彼女たちの多くは、「ただ、家族を助けたい」という一心からタイへ向かったのだ。家族のために勉強を諦め、働くことを決意したのに、巧妙な悪の手口にひっかかってしまった。