【続・灰色の記憶覚書(メモ)】
現在紀伊國屋サザンシアターで上演中の『十一ぴきのネコ』は、タイトルに「子どもとその付添いのためのミュージカル」という副題がある。このことは演出する上でも大変に重要なことなのだと、随分意識して作ってきた。なにせ子どもだけではなくその付添いにもハッキリと向けられているのだから、児童劇みたいなものを作り上げても仕方がない。どちらにも通ずる作品に仕上げねばならない。
そもそもこの戯曲は、付添いに向けられた毒素がそこかしこにちりばめられているかと思えば、子どもが思わず笑ってしまうであろう言葉遊びが連発する。腹ぺこの野良猫たちが都会を捨てて、大きな湖へ大きな魚を求めて旅に出るという馬場のぼる氏の原作通りの物語に、身寄りのない飢えた弱者たちが人間に飼われぬネコとしての独立心、ネコの矜持(きょうじ)を取り戻し、強固であると同時に危うい共同体を形成してゆくさまを、作者である井上ひさし氏は鋭い批評眼で描き込んである。