「どんな人生のテーマであっても、私は関心を持ちますよ。その中でも(本作が扱う)『時間』というものは、回答するのが困難なテストのようなものです。『時間』は人間を成長させるものであり、贈り物にもなり得るものです。ただしそれには条件があって、それは、あなたが時間から何かを学ぼうとし、時間に抗(あらが)おうとしないこと。時間とともに人間が成熟するということは、自分の容貌が変化していく中にあって、内面を洞察して、自分自身と新しい関係を築くことを意味するのです」
作中、血気盛んなジョアンが、せりふの発し方や間の取り方に関するエンダースのアドバイスを拒否し、一笑に付すシーンがある。
怒りの感情はぐっとのみ込みつつも主張するべきは毅然(きぜん)として行い、稽古の現場が険悪な雰囲気にならないようその場を収めたエンダース。大御所の冷静な大人力には目を見張るものがある。「エンダースは(主役をはっていた若かりし自分の)過去を振り払わなければならなくなったのです。過去に戻ることはできない。新進気鋭の主演女優に対抗するような力はもはや失われ、自分はかつてのような重要な人物ではなくなった、と気づいたわけです。しかし、そのとき、彼女は自分が新しい局面に向かっていこうとしていることに気付くでしょう。ある種の解放なのです」。ビノシュは分析する。