所属していた組織がひょんなことから瓦解(がかい)してしまい、誰にも頼れない、まっさらな自分の状態となったときのことを想像したことがあるだろうか。イランの巨匠、モフセン・マフマルバフ監督(58)は、自身の新作ヒューマンドラマの主人公に、クーデターでその地位を追われ、亡命生活を強いられた架空の国の独裁者を据え、人間という存在の本質に迫った。そのタイトルも「独裁者と小さな孫」。
≪独裁国家でクーデターが起きた。これまで国民の税金を搾取してぜいたく三昧(ざんまい)の生活を謳歌(おうか)してきたばかりか、政権維持のためには大勢の罪なき人々を処刑することも厭(いと)わない老齢の独裁者こと大統領(ミシャ・ゴミアシュウィリ)は、幼い孫(ダチ・オルウェラシュウィリ)とともに逃亡生活を送ることになった。羊飼いや旅芸人に変装して海を目指す2人は…≫