今年の四大大会(グランドスラム)の初戦、全豪オープンが開幕したばかりのテニス界に18日、激震が走った。英BBC放送などが、最高峰の大会であるウィンブルドン選手権(全英オープン)を含むトップクラスの試合で八百長が横行していると報じたのだ。過去10年間で、四大大会優勝経験者も含む世界ランキング50位以内の16人の選手が意図的な敗退行為をした疑いで、不正監視団体に繰り返し報告されていたという。テニスは英国などのブックメーカー(賭け屋)による賭けの対象となっており、個人競技であることから八百長が生じやすい土壌もある。一大スキャンダルに発展する可能性が出ている。
■「防止規定は機能」反論も
BBCと米オンラインメディアの「バズフィード」が入手した資料に基づき、疑惑を報じた。それによると、ロシアと北イタリアやイタリア南部シチリアに本拠を置く組織が、八百長が疑われる試合に賭けて数十万ポンドの利益を得ていた。そのうち3試合はウィンブルドン選手権だったという。
国際テニス連盟(ITF)、男子ツアーのATP、女子ツアーのWTAなどは2008年に不正監視団体のテニス・インテグリティ・ユニット(TIU)を設立し、対策に当たってきた。賭けのあるところには必ず八百長の誘惑があるのが世界のスポーツ界の常識だからだ。11年にはセルビア、オーストリアの男子選手に永久資格停止処分を科した。世界ランク上位の選手で問題は発覚していないが、昨年には男子の世界ランク425位だったイタリア選手と576位だったフランス選手が八百長に関与したとして出場停止6カ月などの処分を受けている。
ただ、08年のTIUによるATPへの非公開報告で、調査チームは八百長疑惑のある試合に関与した選手28人への調査を勧告したが、09年に発効した八百長防止規定より以前の事例のため、調査は行われなかったという。TIUの関係者はATPのクリス・カーモード会長(51)は十分な調査を怠ったと指摘しているが、カーモード氏は18日、「過去に18件の懲罰を行い5選手と1役員を永久追放するなど、八百長防止規定は有効に機能している」と反論した。
BBCによると、公になったケースは氷山の一角とみられ、BBCが入手したブックメーカーが八百長を疑っている現役選手のリストに基づくと、このうち8人が18日に開幕した全豪オープンに参加しているという。ただし電話の通話記録や銀行口座の履歴など八百長を断定する確たる証拠がないため、選手の名前の公表は見送った。
■錦織選手「理解できない」
八百長防止を目的としたNPO組織、国際スポーツ安全センター(ICSS)が2014年に発表した調査結果では、世界中で公に賭けの対象になっている各種スポーツの試合を2年間にわたって抽出精査したところ、ほぼ80%の試合に勝敗不正操作の疑惑が見受けられたという。テニスは選手一個人を口説けば八百長が成立するため、賭博組織からも狙われやすいという。
国際サッカー連盟(FIFA)も不正監視のための組織を設立し、莫大(ばくだい)な資金と人材とを投じて世界中のブックメーカーを監視して不自然な賭け金や賭け率の動きがないか目を光らせているのが実情だ。
18日、全豪オープンの初戦で快勝した錦織圭選手(26)は記者会見で八百長報道に触れ「驚いた。僕は全く関与していないし、やろうと思うこと自体、理解できない。特にテニスは1対1の本気の勝負。お客さんが『八百長がある』と感じると、大変なダメージになる。もし本当に(八百長が)あるのなら、絶対やめてほしい」と語った。テニスを愛する者ならファンも皆、同感である。