【KEY BOOK】「族長の秋」(ガルシア・マルケス著、鼓直訳/集英社文庫、864円)
段落も「」もなく、次から次へと物語が重畳して連なっていく。「わたし」が喋っているのか、「神さま」が宣(のたま)っているのかも区別されず、一人称と三人称もどんどん混在するので、読解なんてむりだなと思うのに、そうならない。やがて奇妙な物語の全像からカリブ海に臨む架空の独裁政権国家が炙り出され、大統領の正体と国母の愛憎が蒸し暑い路上の白昼夢のように投射されてくる。すべてが寓話的なのにすべて異様にリアルなのだ。
【KEY BOOK】「エレンディラ」(ガルシア・マルケス著、鼓直・木村榮一訳/ちくま文庫、583円)
マルケスは多くの短編を書いたが、これはその代表的短編集。いずれも「物語る」とはどういうものなのか、その真骨頂が交錯乱舞して、いったん読み始めたら止まらない。『失われた時の海』では海から薔薇の匂いが届き、『大きな翼のある、ひどく年とった男』では天使を捕まえる羽目になり、『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の話』では想像をくつがえす婆さんがエレンディラをいじる。婆さんが入る風呂の描写だけでも感服させられる。