米大統領選の共和党候補指名争いでリードする不動産王、ドナルド・トランプ氏(69)をこき下ろすパロディーの伝記映画がネットで公開され、話題になっている。特殊メークでトランプ氏になりきり熱演しているのはハリウッドの大スター、ジョニー・デップさん(52)。制作者がだめもとで依頼したところ快諾してくれたという。ハリウッドでは、ヒスパニック系移民やイスラム教徒の排斥を主張し対立をあおるトランプ氏への反発が強い。反骨で知られるデップさんも協力、お笑いで風刺するハリウッド流のやり方で「トランプ旋風」に警鐘を鳴らしている。
約50分のこの映画は、トランプ氏が指名争いの序盤の山場である9日のニューハンプシャー州予備選を制した翌10日、人気コメディー動画サイト「ファニー・オア・ダイ」で突如、無料公開された。
■80年代制作の設定
映画のタイトルは、1987年に実際にトランプ氏が出した著書「トランプ自伝-不動産王にビジネスを学ぶ」と同じで、自らが監督・脚本・主演を務めて制作したという設定の偽物の自伝映画だ。
冒頭には、米アカデミー賞を取った大物、ロン・ハワード監督(61)が登場。88年にテレビで放送予定だったが、直前のアメフトの試合が延びて時間がずれたことにトランプ氏が激怒しお蔵入りになったと説明する。そして、「行方不明になっていたテープを昨年夏、アリゾナ州のがらくた市で発見した」と、デタラメの経緯を大まじめに語っている。
続いて始まる本編の映像は80年代風で、主題曲も当時人気を博した米歌手のケニー・ロギンスさん(68)が手掛けるというこだわりようだ。
デップさんは、特殊メークとあの独特の髪形でトランプ氏になりきり熱演。本屋でトランプ氏の著書を万引し事務所に逃げ込んできた少年に対し、「俺はインドのタージ・マハールを買うぞ。あれはイスラム教徒が造った最も感動的な建物だからな」と壮大な野望を語る。ところが、この少年がヒスパニック系(中南米)移民だと分かると、「役者を変えろ!」と素に戻ってキレる-。映画はトランプ氏のこれまでの言動を念頭に徹底的にこき下ろしている。
米メディアによると、主演がデップさんだという情報がネット上で広まり、12日までに220万人が視聴したという。
■予備選勝利見計らい
映画を企画した「ファニー・オア・ダイ」の編集長、オーウェン・バーク氏は11日、米ブログサイト、デイリー・ビーストで「昨秋、デップさんに企画内容を説明して、『君をトランプ役にしたい』と出演を依頼したんだ。最初は『マジか?』と言っていた彼が『イエス』と返事してくれたときは、信じられなかったよ」と明かした。
昨年12月に4日間で極秘に撮影し、トランプ氏が予備選で勝利したタイミングを見計らって公開に踏み切った。
民主党支持のリベラル派が多いハリウッドでは、トランプ氏を糾弾するオンライン署名運動がスタート。これまでに歌手で俳優のハリー・ベラフォンテさん(88)や女優のジェーン・フォンダさん(78)、ケリー・ワシントンさん(39)らが名を連ねた。
デップさんはネーティブ・アメリカンのチェロキー族の血を引き、幼少期は差別に苦しんだという。これまでも挑戦的な役柄を演じてきたが、その反骨精神からトランプ役を引き受けたのかもしれない。