熊本・大分県境の下筌(しもうけ)ダムの建設反対闘争に13年あまりを費やした室原知幸の半生を舞台化。原作は松下竜一の「砦に拠る」で東憲司の作・演出。闘争を支えた夫婦愛が軸となる。
1957年夏、静かな集落にダム建設が持ち上がる。地域で唯一、地主の知幸(村井國夫)が反対運動に立ち上がり、「蜂の巣城」と呼ばれる砦を築く。最初は協力した住民たちは、疲れて次第に離れていく。行政訴訟で敗訴し、孤立無援の知幸を妻、ヨシ(藤田弓子)が支える。
ダム建設反対闘争の顛末(てんまつ)には、東日本大震災における東京電力福島第1原子力発電所の事故、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設など、近年の出来事が重なる。
反対運動が、途中から革新組織の戦略闘争に利用され、見捨てられたことへの批判や、公共事業は「理にかない、法にかない、情にかなうものでなければ挫折する」という知幸の言葉は現代にも通じる教訓だ。終盤で旧建設省幹部と心を通わせる知幸の姿は一つの救いでもある。