「ありえたかも」な世界
前半は、震災が起きる前の世界が描かれる。結婚と出産、自身のキャリアという選択肢を前に焦燥を募らせる沙羅と優子。二人とかつて関係を持ったことがあり、葬祭業者として再び彼女たちの前に現れた男・川島。さらには「バラカ」の実の父親である日系ブラジル人のパウロ、日系ブラジル人の間で熱烈な支持を集める牧師・ヨシザキ。各人のエピソードも全て強烈で、むせかえるような孤独と欲望、悪意がうずまく。
「群像小説のような作りになっています。沙羅も優子も、『子供を持たない人間は無価値だ』という国策的な圧力に追い詰められている。私たちの世代が乗り越えてきたことが、また噴出してきているように思えます。川島は関わる女たちを、みな破滅させていきますが、ミソジニー(女嫌い)や、それと密接な関係にあるレイシズム(人種差別)も、震災後に噴出した悪意の一つ。それらへの腹立たしい気持ちもある」
後半では、震災から8年後、2019年の日本を。原発が4基とも爆発し、東日本すべてが居住困難になった世界だ。「現実より少しだけ激しい世界です。でも、これは『もしかしたらありえたかもしれない日本』なのです」