≪刻印、相棒、奇跡 思い出すよすが≫
宮城県石巻市の漁業、佐藤のり子さん(52)は、津波で家を失った。家だけでなく、家財道具もなにからなにまで失った。唯一残ったのは、震災当日身に付けていた伯母の形見のネックレスだけ。
あの日、突然強い揺れに襲われた。軽トラックで高台を目指して避難した。「孫が帰ってこない。迎えに行ってくれませんか」。荷物を取りに自宅に戻ろうとしていたときに、車を持っていない知り合いの女性からそう頼まれた。大急ぎで保育所に向かい、4歳の女の子を避難場所に連れ帰った。津波が街を襲ったのは、それから20分ほどしてからのことだ。
「人の命を救えたのだから、あの時の選択は今でも後悔していません」。佐藤さんはりんとした表情で話した。
5年前の東日本大震災による津波は、家や家財道具だけでなく、大切にしている品や思い出の品など心のよりどころとなる物まで奪っていった。奇跡的にがれきの中から見つけて再会したり、地震の瞬間に持っていたりなどして、その後の“心の支え”となった品々を伝える。