「わが国の領土・領海は断固として守り抜く」
安倍晋三首相(61)が、海上保安官を養成する海上保安学校の卒業式(19日)で行った訓示を、揚げ足取りを承知で、あえて「間違い」だと問題提起したい。法律を意地悪く読み込めば、海上保安庁に領域警備任務は付与されていない。現職首相として初めて卒業式に出席し、海上保安官を「日本国民の誇り」とたたえた安倍氏の思いは尊い。ただ、今次小欄の注目は訓示後半。図らずも、海上安全保障の重大欠陥を浮き上がらせた。
首相の訓示は無理筋
「海上保安庁の役割は、これからも変化し、その重要性を一層増していく。それは時代の要請であります」
訓示では、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺で繰り返される、中国公船の領海侵入を指摘。拡大する海保の「役割」や「重要性」に理解を示した。が、海保の装備や関係法体系では「時代の要請」には応えられない。
アルゼンチンの沿岸警備隊が、違法操業をやめなかった中国大型漁船を撃沈した14日の事変を例に採る。撃沈は、停船命令に従わぬ漁船に威嚇射撃したが、灯火を消して沿岸警備隊艦艇に体当たりを試み、逃走したため。正当防衛が成立しており、海保でも射撃を実行に移せる。