中国で石炭が奪った「寿命25億年」 衝撃的な大気汚染研究論文

2013.7.10 09:38

 中国の華北で1980年まで実施されていた暖房用石炭の無料配布政策に伴う大気汚染で、華北の住民の寿命が華南に比べ5年以上も短くなった-。こんな研究論文が7月9日までに、米科学アカデミー紀要に発表された。

 影響を受けた住民は5億人に上り、25億年分の寿命が奪われたという。中国では今冬から春にかけ微粒子状物質「PM2.5」による大気汚染が深刻化したが、石炭の燃焼で発生する粉塵(ふんじん)が主な原因といわれている。

 世界の石炭消費量の半分以上を占める中国にとって、粉塵が人体に深刻な影響を及ぼすことを示した研究論文の衝撃は大きい。

 「われわれは(石炭燃焼による大気汚染の)影響の大きさに驚いている」

 研究論文の主筆者である米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・グリーンストーン教授(環境経済学)は、こう語り、警鐘を鳴らした。

 5億人5年超短く

 欧米メディアは研究論文を大きく報じた。それによると、論文は、毛沢東政権時代の1950年から30年間行われた冬季の暖房用石炭の無料配布政策が環境に与えた影響を調査したもの。

 MITのほか、北京大学、清華大学、イスラエルのヘブライ大学の研究者が参加した。

 無料配布は、中国中部を流れる三大大河の一つ「淮河(わいが)」の北側(華北)の家庭や事務所が対象だった。調査では、1981~2001年までの華北と華南の大気の状況を比較。

 その結果、石炭を燃焼した際のすすや煙に含まれる大気浮遊粉塵(TSP)の濃度は、華北の方が最大で55%も高かった。

 さらに研究チームが1991~2000年の死亡統計を分析したところ、華北の住民の平均寿命が華南より5.5年も短くなっていたことが判明した。

 グリーンストーン教授は「長期の大気汚染、とりわけ粉塵にさらされることで寿命が著しく短縮されることが、より強い確信をもって言える。あの政策の(負の)遺産を今日まで引きずっているのだ」と語った。

 世界消費量の半分以上

 中国では今も、石炭燃焼による大気汚染が住民の健康に重大な影響を及ぼしている。

 香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(電子版)が先月報じた専門家の調査結果によると、北部の北京市、天津市、河北省では、石炭火力発電所の煤煙(ばいえん)による呼吸器の疾患で、11年に9900人が死亡したという。

 今冬から春にかけて過去最悪のレベルを記録した「PM2.5」による大気汚染では、中国環境保護省が、全土の4分の1を濃霧が覆い、約6億人の健康に影響が及んだとしている。

 中国政府は、大気汚染抑制策に今後5年間で総額1兆7000億元(約28兆円)を投じる計画を打ち出している。

 ただ、中国の石炭依存度は高いままだ。中国の昨年の石炭消費量は前年比9%増の38億トンに上り、初めて世界の総消費量の半分を超えたという。

 エネルギー構造の転換は容易ではなく、中国国民の健康がむしばまれ、寿命が奪われ続ける懸念が拭えない。

 (SANKEI EXPRESS)

 PM2.5 大気中に漂う微粒子のうち直径2.5マイクロメートル以下と特に小さいもの(1マイクロは100万分の1)。通常のマスクも通してしまうほど小さいため、肺の奥まで入りやすく、大量に吸い込むとぜんそく、肺がんなどの健康被害を引き起こす可能性があると指摘されている。

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