「最大の成長戦略」五輪 政府一丸

2013.8.17 10:30

 【安倍政権考】

 東京とイスタンブール(トルコ)、マドリード(スペイン)が争う2020年夏季五輪開催都市の招致レース。9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる国際オリンピック委員会(IOC)総会で東京開催が決まれば、経済政策「アベノミクス」にも弾みがつくと、安倍晋三首相(58)らは、並々ならぬ意欲をみせている。

 首相はIOC総会に出席する意向を固めた。総会では7日午前(現地時間)に3都市による最後のプレゼンテーションが行われ、この日の午後に約100人の委員による投票で開催地が決まる見通しだ。

 首相自らプレゼンに臨み、東京での「安心、安全、確実な五輪」をアピールする。首相とともに、岸田文雄外相(56)も出席する予定で、政府一丸で取り組む姿勢を前面に打ち出す。

 ただ、総会出席には難題もあった。直前の5、6日に、ロシアのサンクトペテルブルクで20カ国・地域(G20)首脳会合が予定されており、IOC総会に出席するには、G20首脳会合を途中で切り上げざるを得ない。

 どちらを優先させるか迷う首相に麻生太郎副総理兼財務相(72)は、こう助言した。

 「五輪招致だと言えば、G20の首脳はみんなエールでもって送り出してくれるはずですよ」

 波及効果は3兆円

 麻生氏が首相の背中を押したのには理由があった。安倍政権にとって、東京開催の決定が「最大の成長戦略になる」とみているからだ。

 開催地が東京に決まれば、約3兆円の経済波及効果が見込まれ、15万人以の雇用拡大にもつながるとされる。民間の盛り上がりも期待されるだけに、政府関係者は東京五輪決定を「日本全体に活気が出る最高の話題」としている。

 成長戦略の司令塔役の甘利明(あまり・あきら)経済再生担当相(63)も「東京五輪は政府の成長戦略を元気づけるビタミン剤だ」と力説する。

 特に、首相は祖父の岸信介元首相が1964年の東京五輪招致に携わったこともあって、東京招致に並々ならぬ意欲をみせている。

 2016年五輪招致では、09年に当時の鳩山由紀夫首相(66)が、デンマークでのIOC総会に出席し、東京開催を訴えたものの、落選した。政権内には、民主党政権との違いを見せつけたいとの思いもあるようだ。

 最終盤になって混沌

 1976年のモントリオール五輪にクレー射撃で出場した経験のある麻生氏は7月上旬、スイスのローザンヌで開かれたIOC委員へのプレゼンテーションに参加した。政府が財政面でしっかり支援していることをアピールし、途上国のスポーツ文化育成を支援する政府の新プロジェクト「スポーツ・フォー・トゥモロー」構想も披露した。

 麻生氏は帰国後、「手応えがあった」と周囲に語った。その手応えを確実なものにしようと、麻生氏が会長を務める超党派国会議員による「五輪招致議員連盟」のメンバーは(8月)16日からモスクワを訪問。陸上世界選手権の関連行事に集まるIOC委員に接触し、東京をアピールしようというわけだ。

 これまでイスタンブールは治安問題、マドリードは経済状況が不安視され、「東京が有利」(政府筋)との観測があった。ただ、そうした問題をIOC委員がどこまで判断材料にするかは不透明なまま。「マドリードが相当手ごわい」(首相周辺)との危機感もくすぶる。

 最終盤になって混沌(こんとん)としてきた招致レース。安倍政権の取り組みもますます熱を帯びている。(大谷次郎/SANKEI EXPRESS)

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