「セクハラやじ」議会の自浄能力欠如こそ問題 渡辺武達

2014.6.25 17:15

 【メディアと社会】

 サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会が始まり、日本のメディアはそのまま大会終了までW杯一色になるかと思っていたら、6月18日の東京都議会でみんなの党の女性議員の質問中に、セクハラともとれるやじが飛んだ問題が、メディアのもう一つの主役に躍り出た。

 報道によれば、晩婚化・晩産化・不妊治療などを取り上げ、少子高齢化問題への都政の対応について質問していたみんなの党の塩村文夏(あやか)氏(35)に「早く結婚した方がいい」「産めないのか」といったヤジが最大会派の自民党の席の方向から相次いだ。しかも、議会を仕切る吉野利明議長はそれを注意せず、都民の顔である舛添(ますぞえ)要一知事も笑って聞いていたという。

 W杯についてはサムライブルーの日本チームが勝っても負けても私たち視聴者は歓喜したり、失望したりと純粋に楽しめばいいし、事実そうなっている。もちろん、その盛り上がりのあおりで、将来の日本を決める大切な問題についての報道が少なくなっているのは問題ではるあるが。

 一方、多くのメディアが「セクハラやじ」と呼ぶそれは、全女性への「ヘイトスピーチ」そのもので、日本社会のあり方に関わりる問題として、笑って済ませられることではない。

 議長がそれを一般的なやじと同様に受取ってやりすごし、知事がにやりとしていたこと自体が人権への配慮に欠けるもので許せないことだが、ネットでの批判が大きくなると知事は「やじは女性の尊厳を傷つけ許されない」といい、「議場では自分にはやじの内容は聞き取れなかったがつられて笑ってしまった」などと弁明。一方で、都議会が介入すべき問題ではないとした。

 やじを飛ばした議員にとどまらず、周囲の者も「誰の発言かも分からない」と言って逃げまわり、だれも責任をとろうとせず、うやむやにしようとした。塩村都議はこうした対応を不満とし、議長に発言者の特定と処分を申し入れたが、最初は発言者が特定できないという理由で議長はそれを受け入れなかった。しかし、メディアの追及が高まり、23日になって、そのうちの一人の鈴木章弘(あきひろ)都議が暴言を認めて、塩村都議に謝罪した。誰がどういう発言をしたかは音声記録を点検すれば、すぐ分かることだから失態の上塗りだ。

 辞書は「やじ」を「話し手に水を差すような、からかいや非難の言葉」とか、「弁士に集中力を失わせるようなひやかし」などと説明している。それが権力者のごまかしや言い逃れを批判するために使われれば、ある程度までは「議会の花」として容認することもできる。しかし、今回のように、男女が共同参画による少子高齢化社会への対応が迫られる時代に、たとえ質問者の主張が自分の所属する政党の方針と合わないとしても、女性差別そのものであるやじで返し、問題になると逃げ回るようであれば、それこそ議員失格どころか「人間失格」だろう。

 今回のことで救われるのは、すべてのテレビ、新聞がそのやじに批判的で、メディアの健全性が見て取れることだ。NHKも民放もすべてがこの話題をとりあげ、ある民放の番組の案内には「セクハラやじ(1)世界も批判!〈名乗り出ろ!〉犯人捜しへ(2)甘い議会、処分要求を受理せず…街の声は」とあり、実にわかりやすい。

 テレビ・新聞全てが批判

 今回の件は議員の品性の問題ではない。議会という場所でそうした「ヘイトスピーチ」が平然と行われたのに、議会に自浄能力がなかったということが問題だ。一般の居酒屋談義でも糾弾されるようなレベルの発言が、議会という選良合議の場で女性への公然の「憎悪表現」として発せられた。健全な社会の阻害要因として、こうした現実を変革していくことが求められている。ましてや東京は2020年五輪を開催しようとしているのだから、徹底的な事実解明を行い、その範を世界に示さなければならない。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS)

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