日露関係に好影響及ぼす都知事発言

2014.9.7 08:25

 【佐藤優の地球を斬る】

 舛添要一東京都知事のロシア・シベリアのトムスクでの発言が、今後の日露関係に肯定的影響を与えるかもしれない。4日、露国営ラジオ「ロシアの声」は、舛添発言についてこう報じた。

 「米に頼らざるを得ない」

 <東京都知事 「日本政府は米国の圧力のもと対ロ制裁を導入」

 4日、西シベリア・トムスクでの記者会見で舛添東京都知事は「米国は、日本が対ロシア制裁を導入するため、日本政府に圧力を加えた」と述べ、次のように続けた-

 「日本は、安全保障問題において、米国に大きく依存している。日本には、対中国、対韓国、対北朝鮮と数々の問題があり、そうした事から、米国の軍事力に頼らざるを得ない状況にある」

 このように述べた舛添都知事は、さらに「ロシアの人々は、日本がそうした複雑で困難な状況に置かれていることを理解してほしい」と述べ「導入された日本の制裁が持つ性格は、取るに足らないものだ」と指摘し「日露関係改善のため自分は、あらゆる努力を傾けるだろう」と約束した。

 舛添都知事は、トムスクで9月4日から6日まで行われている「アジア主要大都市ネットワーク」サミットに出席中だ>(http://japanese.ruvr.ru/news/2014_09_04/276858220/)

 舛添氏の「ロシアの人々は、日本がそうした複雑で困難な状況に置かれていることを理解してほしい」や「導入された日本の制裁が持つ性格は、取るに足らないものだ」、「日露関係改善のため自分は、あらゆる努力を傾けるだろう」という発言は、ロシアの政治エリートに対しても民衆に対しても強い説得力を持つ。

 「ウクライナ」とは距離を

 最近、筆者が得た情報では、プーチン露大統領は、ある日本人に対して「安倍首相の対露姿勢はなぜ最近厳しくなったのか。きちんとした話をヨシ(森喜朗元首相)から聞いてみたい」と述べた。今月8、9日、モスクワで日露の新聞社主催の「経済フォーラム」が行われ、日本ロシア協会の最高顧問をつとめる森喜朗(よしろう)氏が出席することになっている。

 森氏は、安倍晋三首相からプーチン大統領にあてた親書を持参することになると思う。親書を渡すという理由があれば、プーチン大統領は森氏と会見する。この会見の結果で今後の日露関係の方向性が定まると思う。

 ここで重要なのは、日本がウクライナ東部における親露派武装勢力とウクライナ政府軍の紛争に深入りしないことだ。ウクライナ政府は稚拙な嘘を平気でつく。ロシアも真実に口を閉ざし、情報操作(ディスインフォメーション)工作を平気で行う。この問題は、一方が正しくて、他方が間違っているということではない。

 ロシアが毒蛇ならば、ウクライナは毒サソリだ。毒蛇と毒サソリの戦いから日本は極力距離を置き、いずれの側も支援しないことが重要だ。率直に言って、日本政府は米国に引きずられてウクライナ政府に不必要な支援を行っている。日本の経済支援によって浮かせたカネを、ウクライナ政府が親露派武装勢力との戦闘に用いる可能性は十分ある。ロシアからすればこれは日本がウクライナに軍事援助を行っているのと同じ効果を持つ。

 米国もロシアもウクライナ紛争にケリをつけなくてはならなくなっている。それは、「イスラーム国」(IS)の影響がシリア、イラクを超えて中東全域に及び始めているからだ。さらにISのテロリストにはヨーロッパ出身者も多い。今後、テロ活動がヨーロッパ、米国、ロシアに拡大する可能性が十分ある。テロを阻止するためにロシアと欧米は接近を余儀なくされる。このあたりのロシアの見通しについて、森氏がプーチンに直接尋ねてみると面白い。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)

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