【安倍政権考】航空観閲式で「中国」を避けた安倍首相

2014.11.1 09:15

 「隊員諸君、全ての日本国民が、そして世界が諸君を信頼し、大いに頼りにしている。その誇りを胸に、次なる60年に向けて、力強い一歩を踏み出してほしいと願う」

 安倍晋三首相(60)は10月26日、航空自衛隊百里(ひゃくり)基地(茨城県小美玉市(おみたまし))で開かれた自衛隊創設60周年記念の航空観閲式に出席し、約740人の隊員を前にこう訓示した。

 習氏と会談調整

 訓示では、首相が掲げる「積極的平和主義」の実践には「自衛隊の存在を抜きに語ることはできない」と言及。女性自衛官の活躍にも触れ、「女性の力が自衛隊にとって新たな活力の源になっている」と、政権の看板政策である「女性の輝く社会の実現」についてもアピールした。

 さらに今回の航空観閲式には、米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイや、航空自衛隊が米国から導入予定の最新鋭ステルス戦闘機F35Aの実物大模型が初登場。首相も式典終了後に視察し、日米同盟の絆の強さを強調した。

 このほか、自衛隊創設60周年にちなみ17機のT4練習機が「60」の形に並ぶ編隊飛行を披露するなど見どころ満載の航空観閲式だったが、気になったのは首相の訓示で、日本の安全保障上の大きな脅威となっている中国を念頭に置いた発言がなかったことだ。

 昨年10月に陸上自衛隊朝霞駐屯地(東京都練馬区など)の朝霞訓練場で行われた観閲式の訓示で首相は「力による現状変更は許さないとのわが国の確固たる国家意思を示す。そのために警戒監視や情報収集をはじめとしたさまざまな活動を行っていかねばならない」と述べ、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺などで挑発行為を繰り返す中国を牽制(けんせい)していた。

 観閲式は各国の軍関係者やメディアが招待される行事で、中国の軍事的な拡張主義を国際社会に知らしめる絶好の機会でもあった。あえて中国に触れなかったのは、やはり11月10、11両日に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、習近平国家主席(61)と首脳会談を調整していることが背景にある。政府高官は「首脳会談を前に、日本側からあえて波風を立てる必要はない」と説明する。

 実現は五分五分

 振り返ってみると、首相は第2次政権発足以来、外遊の際のスピーチや記者会見で、ときには名指しで、東シナ海や南シナ海への中国の積極的な海洋進出の脅威を国際社会に訴え続けてきた。そうした首相の論調に変化が出てきたのが7月下旬から8月上旬に行われた中南米外遊のころからだ。

 首相は8月2日、ブラジル・サンパウロでの記者会見で、日中首脳会談について「お互い静かな努力を続けることも大切だ」と述べ、水面下で調整に入ることをほのめかしていた。

 中国側も、習主席が10月29日に7月に続いて福田康夫元首相(78)と面会するなど、日中の要人同士の会談を実現させ、首脳会談へのムードを高めている。

 ただ、首脳会談が既定路線かというと、実際はまだ五分五分の状況だ。首相周辺は「日本国内で首脳会談への期待ばかり高まると、中国に足下を見られるだけだ」と警戒する。

 首相の思いは尖閣問題や靖国神社参拝などで条件を付けずに首脳会談を実現することだ。政権としては「静かな努力」を続けながらも、「中国側が条件にこだわってくるようだったら、会談を行わなくてもいい」(官邸筋)との方針を堅持する。国内政局はスキャンダル合戦の様相だが、外交はこれとは切り離して冷静に臨む構えだ。(政治部 桑原雄尚/SANKEI EXPRESS)

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