「独身税」に若者の怒り爆発 韓国高官「冗談」と弁明も火に油

2014.11.16 08:30

 日本より少子化が深刻な韓国で、担当部署の保健福祉省幹部が、「数年後をめどに“ペナルティー”として、未婚の男女を対象に『独身税』を徴収することも考えられる」と発言。批判が噴出してネット上で炎上し、当局は事態の沈静化に追われている。

 有効な対策が見いだせない苦境を強調したかった発言とみられるが、「冗談だった」とメディアに弁明したことで、「そんな冗談が許されるのか」などとさらに反発を呼び、火に油を注いでいる。好きで独身でいるわけではなく、経済的に苦しいから結婚も出産もできないというのが実情であり、「独身が罪なのか」とする若者の怒りは深刻だ。

 「大統領も払うんだろうな」

 問題の発言が韓国の一部メディアで報じられたのは12日で、「独身税」という言葉は瞬く間に韓国の各ポータルサイトで検索率が最も高いキーワードになった。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などでは「おカネが無くて結婚できないのに、カネを取るのか」「少子化対策に名を借りて、不足している税収を補うための口実ではないのか」「導入するなら当然、(独身の)朴槿恵(パク・クネ)大統領も払うんだろうな」といった反発の書き込みが相次いだ。

 事態を重く見た保健福祉省は、「韓国政府は少子化の深刻さを認識し、結婚、出産、子育てに有利な条件を構築するためのいくつかの課税を検討している。しかし、独身税などペナルティーを科す案は正式に検討していない。(幹部の)発言は真面目なものではなく、冗談」などと釈明した。

 だが、仮に冗談だったとしても、少子化問題の深刻さを表現する中でこうした言葉が飛び出すこと自体に、韓国政府の憂いの深さが見て取れる。韓国では、1人の女性が生涯に産む子供の推定人数を示す合計特殊出生率が昨年1.19と日本の1.43よりも低い。

 発言の裏に深刻な出生率

 しかし、かつての韓国は多産社会で、日本の合計特殊出生率が2を切ろうとしていた1950年代後半には6を超えていた。減るきっかけになったのは、70年代に当時の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(1917~79年)が導入した産児制限策だった。

 朴政権は「子供が多いと、食べることだけで精いっぱいになり、他の消費に手が回らず生活も豊かにならない。韓国が先進国になるためには人口を抑制する必要がある」として、3人以上産むことを制限した。その結果、韓国の合計特殊出生率は、80年には2.63、90年には1.60と急落。2005年にはついに1.08にまで減った。

 韓国国会の立法調査処が今年行ったシミュレーションによると、出生率が昨年の1.19のままだと想定すると、韓国の人口は現在の約4900万人から今世紀末までに2000万人に減少するという。さらに、2750年までに韓国人は恐竜と同じように絶滅する恐れがあるという衝撃の結果が出た。

 学歴偏重の人物評価が生む受験競争や若年層の就職難、働く女性への支援の欠如などが相まって、恋愛、結婚、出産をすっかり諦めた世代を韓国では「三放世代」と呼んでいる。政府は1990年代には産児制限を撤回し、特に2006年以降は少子化対策に力を入れているが、目立った効果は挙げていない。

 少子化の背景の一つには、70年代以降、食が足りていく中で、子供は少なく産んで大事に育てるという風潮が定着したこともある。塾代などを含めた教育費の私的負担では、韓国は世界一の高さだ。

 「独身税」は、まず未婚者を減らすことから手をつけようという発想だが、韓国の少子化の根は深く、仮に導入されたとしても効果は不確かだ。

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