【上原浩治のメジャーリーグ漂流記】来年40歳 「まだまだ未熟者やな」

2014.12.8 12:40

 来季だけでなく、2年後のシーズンもメジャーでプレーできることがきまった。日本でも報道されている通り、レッドソックスと来季から2年契約を結んだ。

 来年4月には40歳になる。この年になると、球団側も将来の活躍が読みづらく、単年契約の打診が予想された。私としては「一年でも長く、メジャーで野球をしたい」という思いが強い。交渉を委ねた代理人には、「できれば複数年契約」と希望を伝えていた。合意については、代理人と球団に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 メジャーに挑戦したのはプロ11年目、33歳のときだった。渡米するとき、何とか5年はプレーしたいと思った。2013年シーズンが節目の5年目。このとき、ワールドシリーズ制覇という悲願も達成できた。14年からは次のステージに向かった。まさに一年、一年が勝負。マイナーには、自分より若い有望株がそれこそ1チームに数百人といる。戦力として必要ないと判断された瞬間、解雇の世界だ。その中で、一年でも長くと現役にこだわる気持ちが強くなった。

 11月中旬に帰国した。練習の合間を縫ってだが、テレビなどメディアの出演依頼が届くのはうれしい限りだ。これも、現役だからこその誘いだと思っている。「現役でいるうちが華」。巨人時代の先輩たちがユニホームを脱いだ後に口にする言葉の重みも実感する。

 失敗繰り返すことも

 自分の中では、20歳も40歳も関係ない。メディアや周囲は数字を強調するが、年齢で野球をするわけではないからだ。

 いろいろな経験をしてきたし、踏んできた場数は年齢を重ねるのに比例して増える。それが、マウンドでの引き出しになる。投げているとき、特にピンチの場面になると、過去の同じようなシーンが記憶によみがえる。そのときの抑えた経験や、打たれた教訓が生きてくる。

 格好良いことばかり言ってみたが、同じ失敗をいまだに繰り返すことがある。「打たれ出すと止まらない」。マウンドで、冷静になれていない自分が今季もいた。シーズン終盤は打ち込まれた場面も多かった。「まだまだ未熟者やな」。この年齢になっても、そんな感情がわき起こる。

 振り返れば、長くなったプロ生活。思い返せば、引退の危機もあった。メジャー1年目。09年に右肘を痛めた。オリオールズとは2年契約だった。あのとき、1年契約だったらリリースされて、獲得する球団もなかったと思う。一年、一年のつもりで勝負してきたが、あのときほど複数年契約のありがたみを実感したことはない。

 契約2年目に当時の監督から「もう先発では使わない」と宣告されたことで気持ちも吹っ切れた。中継ぎとして、抑えとしてのプロ人生の“第2幕”が始まった。

 気持ち切らさず

 来季の契約は、プロ入り後の自己最高年俸になる。お金というのは、プロである以上、大切な評価基準だ。素直にうれしい気持ちになった。

 40歳で最高というのは、ここまで続けてこられたからこそでもある。アマチュア時代にともに汗を流したチームメートや支えてくれるトレーナー、周囲のサポートがあってこそだと、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 その中で迎える来季の目標は「気持ちを最後まで切らさない」ということに尽きる。今季は優勝争いから脱落し、トレードで主力がいなくなったとき、低迷するチーム成績の影響で自分の気持ちも少し切れてしまった部分があった。とにかくシーズン最後まで、集中力を持続させたい。

 今季もクローザーを任されたが、来季も競争で勝ち取りたい。競争を大変だという人もいるけれど、戦いがなくなったらおもしろくない。それは、一般社会でも同じような気がする。だから、10月に米国で家族と過ごした時間がつかの間のオフで、帰国後はトレーニングを翌日から始めている。

 あえて数字で目標を挙げるなら、セーブ機会で90%以上の成功率だ。その上で、チームがワールドシリーズを制した一昨年のような歓喜を味わえたら最高だ。

 読者の皆さんもご存じの通り、ア・リーグ東地区は世界一のレベルの高さだと思っている。そんな中で、クローザーとしてチームを勝利という結果へ導いていく。そこにやりがいがあると思っている。(レッドソックス投手 上原浩治/SANKEI EXPRESS)

 ■うえはら・こうじ 1975年4月3日、大阪府生まれ。1浪して入学した大阪体育大時代に才能が開花。3年時に日本代表に選ばれ、国際大会151連勝中のキューバから白星を挙げる。99年にドラフト1位で巨人に入団。1年目に20勝を挙げて最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率と史上10人目の「投手4冠」を達成し、新人王と沢村賞を受賞する。その後は巨人のエースとして活躍したほか、日本代表として2004年アテネ五輪で銅メダル、06年ワールド・ベースボール・クラシックで優勝に貢献。09年から米大リーグに移籍し、今季が6年目。

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