薄毛治療に期待!幹細胞で毛髪生成 米露研究チーム、今後臨床実験

2015.1.30 06:40

 米露の共同研究チームが、あらゆる種類の細胞に分化する能力を持つヒトの「幹細胞」を使って、毛髪を生やすことに成功したと29日までに発表した。その成果は米科学誌プロスワンに掲載された。幹細胞を毛髪を生やす「頭髪毛乳頭細胞」に分化させ、マウスに移植し、ヒトの毛髪の生成を確認した。今後、人体での臨床実験を行っていく計画だ。成功すれば、研究室で無限に培養できる幹細胞を使った画期的な薄毛や抜け毛の治療法になるとの期待が高まっている。

 「無限に作り出せる」

 研究成果を発表したのは、米カリフォルニア州のサンフォード・バーナム医学研究所と、モスクワのコルソフ発生生物学研究所の共同チーム。プロスワンに掲載された論文に基づき、英紙デーリー・メールなどが伝えた。

 ノーベル賞級ともいわれる薄毛の根本的な治療法については、世界中の研究者が昔から熱心に取り組んでいるが、遺伝や男性ホルモンが原因とされ、発見には至っていない。研究者の間では、人体のあらゆる器官に分化する能力を持ち、再生医療に使われる幹細胞の使用が解決策になると注目されてきた。

 毛髪を生やす成人の頭髪毛乳頭細胞は「体外では増えることができず、発毛能力をすぐに失ってしまう」(サンフォード・バーナム医学研究所のアレクセイ・テレスキフ助教授)のが、最大の難点だった。

 そこで「幹細胞を頭髪毛乳頭細胞に分化させる特殊なプロトコル(手順)を編み出した」(テレスキフ助教授)という。この細胞をマウスに移植したところヒトの毛髪の成長を誘発することが確認できたとしている。

 現時点で具体的な手順は明らかにしていないが、スペインの国立がん研究センターが先に、白血球の一種である「マクロファージ」が、毛髪の成長に関係する幹細胞の分裂を活性化させることを発見しており、この技術を応用したとみられている。

 テレスキフ助教授は「この方法だと、患者のための頭髪毛乳頭細胞を実験室で無限に作り出すことができる」と述べた。

 低コストで大量移植可能

 現在唯一の薄毛治療法は、自分の後頭部などに残された毛髪を作り出す皮膚器官の「毛包」を移植するしかないが、毛包が失われていれば不可能だ。幹細胞から分化させた細胞を使えば、低コストで大量の移植が可能になる。

 テレスキフ助教授は「次のステップはヒトでの実験を成功させることで、現在、そのためのパートナーシップを募っている」と述べ、人体での臨床研究に意欲をみせた。

 現在、薄毛や抜け毛に悩む人々は、米国だけで男性が4100万人、女性も2100万人に上るという。全世界では15億人ともいわれており、一日も早い実用化を待ち望んでいる。(SANKEI EXPRESS)

 ■幹細胞 分裂して自分と同じ細胞を作ったり、別の細胞に分化する能力を持つ細胞。人体の組織や臓器に成長する源となる。受精卵から作られる胚性幹細胞(ES細胞)も、その一種で、ほとんどすべての臓器の細胞に分化できる多能性を持つ。京都大学の山中伸弥教授(52)らのグループが開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、受精卵ではなく、皮膚由来の体細胞に数種類の遺伝子を組み合わせて作り出した。

閉じる