ダンス・ダンス・アジア in バンコク(上) 笑って楽しめる青春ストーリー

2015.4.9 10:55

 サッカー日本代表を思わせるブルーのユニホーム姿のダンサーが舞台狭しと走り回り、赤のユニホームのダンサーとダンスバトルを繰り広げる-。かわいい女子マネジャーをめぐっての恋のさや当てシーンでは観客から「きゃー」っと大きな歓声が上がった。

 ストリートダンスでアジアの国々との文化交流を進める「国際交流基金アジアセンター」(東京都新宿区)のプロジェクト「ダンス・ダンス・アジア」の一環として3月下旬、タイ・バンコクで行われた公演の様子だ。

 演じているのは、コント仕立ての笑いあり、ほろりとさせられる人情話ありの青春ストーリーを、J-POPナンバーにのせて、全編ダンスで表現する新感覚のダンスエンターテインメント集団「梅棒(うめぼう)」。

 この文化交流プロジェクトは、今年1月のフィリピンに始まり、マレーシア、ベトナムと続き、今回のタイが最終回。タイ公演には梅棒のほか、ジャズやヒップホップなど、各分野で活躍する1990年代生まれの若いスーパーダンサーの集団「90’s」(ナインティーズ)と、多くのアーティストから支持されるカリスマ性と独自の世界観を持つリーダーのMIKEY(マイキー)こと牧宗孝さん(32)率いるダンスカンパニー「東京ゲゲゲイ」が参加した。

 梅棒で演出と振り付けを担当する伊藤今人(いまじん)さん(32)は、当初1曲くらいタイポップで踊りたいと考えたが、うまくはまらなくてクオリティーが下がるのを懸念して全編J-POPでまとめたという。「サッカーと恋愛ならどこに行っても理解してもらえる。漫画とアニメのように笑って楽しめる世界をダンスだけで表現した」と話した。

 また、ナインティーズが、三味線の音楽をバックに扇子を振り回して踊るシーンではひときわ大きな拍手が送られていた。

 ≪伝わるパッション ダンサーも興奮≫

 ダンス・ダンス・アジアのプロジェクトはバンコクをはじめ4都市で計9公演を行い、約4500人の観客を集めたほか、公演と同時に行われたワークショップも大盛況で計8回に1240人が参加。日本人ダンサーとの交流を楽しんだ。

 東京ゲゲゲイの踊りのスタイルを手ほどきするワークショップには50人以上が集まった。会場からあふれそうな人で、終始熱気に包まれた。若い男性と子供の参加者の姿も目立った。

 マイキーさんが鏡の前に立ち、音楽に合わせて「ボンボンパーン」などと歌いながら振りの手本を見せると、参加者も口ずさみながら一生懸命まねる。初級クラスとはいえ、かなり熟練の参加者が多く、あっという間にゲゲゲイ独特のフリを身につけていた。マイキーさんが「パワーのオンオフを分けると、エキサイティングになるので、メリハリを付けて」「振り付けは練習すればできるけどパッションは踊れる踊れない関係ないから。パッションは大事よ」などと指示を飛ばすと、参加者からは歓声が上がった。

 最後には1曲の振り付けを完成させ、参加者がグループに分かれて発表。マイキーさんは「やっていてとても楽しかった。ワークショップが終わった瞬間にもう一回バンコクに来てもっとじっくり教える機会があってもいいなと思いました」と興奮気味に話した。

 プロジェクトリーダーを務める国際交流基金アジアセンターの吉岡憲彦さんは4回のプロジェクトを終えて「どこも反響がすごく大きくてうれしかった。演劇系の人やストリートダンスのファンでない人が刺激を受けたというのを聞いてやってよかったと思う」と話す。

 さらにアジアの人たちは、面白いと感じるとストレートに反応して「わあっ」と盛り上がり、自分が楽しむために来るという舞台本来の見方をしている印象が強かったという。こうしたストレートで熱気のこもった反応はダンサーたちにも伝わり、相乗効果をもたらしたことはいうまでもない。

 プロデューサーを務めるパルコの中西幸子さんは「今回の公演で生まれた出会いを来年からのプロジェクトでさらに生かしたい。われわれからの提案で始まったが、現地からの提案が活発になればいい」と話していた。

 10月には東京都世田谷区の世田谷パブリックシアターで凱旋(がいせん)公演を開くほか、今年8月のインドネシア・ジャカルタを皮切りに来年1~3月にプロジェクト第2弾を開催する予定だ。(田中幸美(さちみ)、写真も/SAN KEI EXPRESS)

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