「女優視線で苦痛」中国で“仰天訴訟”乱発 司法改革のとばっちり

2015.6.11 00:00

 中国の国民的女優のヴィッキー・チャオさん(39)が、上海在住の男性から「熱い視線によって精神的苦痛を受けた」として訴えられた。AP通信などが10日までに伝えた。「法治の推進」を掲げる習近平指導部は、国民が裁判を起こしやすくする司法改革を5月1日に実施。その結果、こうしたおかしな訴訟が乱発され、5月の訴訟件数が前年に比べ約3割も急増した。不公正で不公平な社会への不満が鬱積する国民のガス抜きを狙ったようだが、最高裁に当たる最高人民法院の幹部が「エネルギーの無駄遣いだ」と激怒する事態になっている。

 テレビドラマ見て…

 チャオさんは5月からゴールデン・タイムで放映中の人気テレビドラマ「タイガー・マム」に出演。娘を厳しくしつける情緒不安定な母親を演じているが、ドラマを見ていた男性が、テレビからそそがれる視線で「精神的苦痛を受けた」と主張し、上海市浦東新区人民法院(地裁)に訴状を提出した。氏名などは不明で、裁判所の関係者はメディアに対し訴状を受理したかどうかの言明を避けた。

 チャオさんはテレビドラマ「還珠姫~プリンセスのつくりかた~」(1998~99年)で人気を集め、映画「少林サッカー」(2001年)や「レッドクリフ」シリーズ(08、09年)に出演し、“中国四大若手女優”の一人となった。大きな瞳がチャームポイントで、中国男性をとりこにしている。

 前代未聞の訴えに対し、中国版ツイッターの「微博(ウェイボ)」には、「この男は頭がおかしいのか? 女優が大きな瞳だったら何か問題なのか?」「こうしたおかしな訴訟は却下されるべきだ」といった非難の書き込みが殺到し、大きな騒ぎになっている。

 訴えはその場で受理

 チャオさんに対する訴訟は、司法改革のとばっちりといえる。習指導部は法に基づく公正・公平を国民に示し司法の信頼性を高めるため、訴訟手続きの大幅な簡素化に踏み切った。

 中国国営新華社通信(英語電子版)によると、これまで裁判所は、原告に訴訟を行う資格があるかなどを徹底的に審査して受理の是非を判断し、門前払いにするケースも多かった。しかし、5月1日からは法に従って申し立てられた訴訟はその場で受理され、司法手続きを開始しなければならなくなった。

 ある弁護士は、AP通信に「政府が被告となる行政訴訟なども受理されるようになる」と、“法治国家”への期待を示した。

 件数29%増、月100万件に

 最高人民法院によると、5月の訴訟件数は前年同月比29%増の約100万件に急増したが、チャオさんのようなくだらない訴訟が乱発されたことも原因とみられている。

 最高人民法院の訴訟案件室次長、ガン・ウェン氏は9日の記者会見で「こんな案件で司法のエネルギーを無駄遣いする必要はない」と怒りをぶちまけた。

 中国では官僚だけでなく司法の腐敗への不満も高まっており、習指導部は相次いで司法改革を打ち出している。新華社は今回の改革について「法治を進めることで、法制度全体が円滑に機能し、ガバナンス(統治)に大きな役割を果たすと期待される」と論評した。だが、実際には不満のはけ口として訴訟が乱発され、司法の混乱を招いただけのようだ。(SANKEI EXPRESS)

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