2015.9.1 10:40
米国防総省が官民共同で、兵士が身につけることを前提にした伸縮自在の「ウエアラブル端末」など次世代の技術開発促進に乗り出した。
安全保障分野での米国の先端技術の優位性確保を図る取り組みの一環で、協力する企業連合にはスマートフォンで知られるアップルや巨大軍需産業のボーイングなども参加。
開発が進めば、遠隔地からでも全兵士の健康状態がリアルタイムで確認でき、兵士自身も船上や戦闘機から巨視的な戦局を刻々と把握できるようになるなど、戦闘のあり方がさらに進化していくことは必至だ。
遠隔地で生体情報検知
IT企業が集まるシリコンバレーの一角にあるカリフォルニア州マウンテンビューで計画を発表したアシュトン・カーター米国防長官(60)は8月28日、「ロシアや中国が(米国との)技術差を埋めようとしている。しかし、米国の優位確保は決して譲れない」と力説。覇権争いで米国がリードし続ける決意を表明した。
計画には162の企業や大学などが参加。総額1億7100万ドル(約207億円)の事業で、このうち7500万ドルを米政府が拠出する。
インターネットやGPS(衛星利用測位システム)も元々は米軍の先端技術の産物だったことからも分かるように、米国では製造業のイノベーションが起きる時は、その多くを国防総省が後押ししている。
今回も軍主導で技術革新を起こそうというのが狙いで、まず当面は極限まで薄くて軽い伸縮自在の回路基板の開発を目指すという。
カーター氏は「完全に人間の皮膚のような製品ができれば、制服に埋め込むことが可能となり、大きな可能性を秘めている」と説明。
兵士の生体情報をモニターするバイオマーカーが開発されれば、発汗・電解質量や心拍数血液酸素飽和度などをリアルタイムで検知して、指標をディスプレーに表示することができるようになる。
さらに戦闘に参加する全兵士が従来の電子端末のようにキーボードに触らずに、敵味方の位置情報や戦況を確認することが可能になる。
3Dプリンターの軍事転用
また、すでに研究を進めている行軍兵士に疲れを感じさせないシステムなどの完成も目指す。これは、重い荷物を背負った兵士の軍靴に取り付けた高性能センサーが、足の動きを1000分の1秒単位の正確さでキャッチし、そのデータを兵士が背負ったリュックの中にあるコンピューターに送信するという仕組みだ。
コンピューターは足が地面を蹴る次のタイミングを予測し、ふくらはぎに付けられた駆動装置に指示。装置は内包されたワイヤをモーターで引っ張りあげ、地面を蹴り出す力をアシストするというものだ。
国防総省は現在、他にも官民共同の研究を複数進めているが、中でも特に力を入れているのが3Dプリンターの技術革新だ。軍事転用による「兵站(へいたん)革命」を意図し、戦車や重火器の素早い搬送が難しい遠隔地や離島の戦場などに高性能の3Dプリンターを持ち込み、現地で戦車や武器をどんどん生産させようというものだ。
現在では、無人機による偵察、爆撃が当たり前になり、アフガニスタンや中東での戦闘をワシントンからコントロールすることも日常のことになったが、戦争のあり方はとどまることなく変化し続けている。(SANKEI EXPRESS)