【フィンランド紀行】(下) 冬のラップランドでわくわく体験

2016.1.26 11:00

 ヘルシンキから小型機で1時間、私たちはフィンランド北部のクーサモという小さな街に降り立った。空港からは大型の四輪駆動車で、ウインターリゾートの地、ルカへ。運転手がときどきブレーキを踏むので、何だろうと思って窓を開けると、放牧されたトナカイの群れが目の前をのんびり横切っていく。のどかな光景だ。

 フィンランドは国土が日本の9割程度で、人口は東京のほぼ半分。シラカバや松、トウヒなどの森林が国土の約6割を占め、1割が湖という自然豊かな国だ。なかでも北極圏に位置するここラップランド(スカンジナビア半島北部の地域で、大部分が北極圏内)は、いまの季節がもっとも美しい。周囲をとりまく針葉樹や家々の屋根に純白の雪が積もり、空気がしんと澄みわたる。ユニークなアクティビティーが楽しめるのも、この季節ならではだ。

 滞在初日は、ウオーキングツアーに参加した。日本でいう“かんじき”のようなスノーシューズを履いて、プロのガイドとともに雪深い森の中へ分け入っていく。太陽がかろうじて頭上に居座ってくれる3時間ほどを利用した、わくわくするような冒険だ。そして翌日は、全身をゴム製の防水スーツで包み隠して極寒の川にぽかぽか浮かぶ「フローティング・リバー」を体験。自然の中で川の流れに身を委ねていると、人生観が変わってしまう。

 オーロラ観賞や本場のサウナ体験も、ラップランドの旅の醍醐味(だいごみ)である。私たちが滞在した3日間は残念ながらオーロラは姿を見せなかったものの、フィンランドが発祥である本場のサウナは存分に満喫することができた。

 ≪生活に溶け込むサウナ 健康の源≫

 「サウナなしの生活ですか? 考えられません」

 今回の旅で出会った人たちが、異口同音にそう語った。

 自宅にサウナを併設している家庭も多い。ラップランドでは、その割合がきわめて高くなるそうだ。

 サウナの中でももっともポピュラーなのが、シラカバの薪を燃料にして石を焼き、そこに水をかけて煙(水蒸気)を発生させ身体を熱気で包み込む「スモークサウナ」。

 ホテルなどのサウナでは、汗が噴き出した身体の血行をよくするため、同じ空間に居合わせた人同士でシラカバの小枝でバサバサたたき合う。サウナは地域の人々の憩いの場であり、社交場でもある。

 私たちも本場のサウナを体験するため、湖畔に建つコテージの一つを訪ねた。

 服を脱いでスイムウエアに着替え、あらかじめ薪をたいて温度を高めておいてくれたサウナ室へ。香ばしくいぶされた煙が、鼻をつく。インストラクターの女性が焼けた石に水をかけると、熱気がものすごい勢いで部屋中に充満した。

 「もう我慢できないという状況になってから、さらに20秒か30秒我慢してくださいね」

 そうして限界まで身体を熱したあとで、雪の積もる小道を歩き、湖の氷を割ってつくった天然の冷水風呂へ飛び込むのだ。

 水温はわずか2度。冷たいというより、痛い! 大げさではなく、死ぬかと思った。3秒もじっとしていられず、走って再びサウナ室へ。同じことを繰り返すと、2回目は水風呂で少しは我慢できるようになり、3回目はまったく平気になった。寒気を寄せつけない膜が身体にできるそうだ。新陳代謝が活発化し、老廃物が身体の外に出ていくのを実感できる。

 初めての体験で病みつきになり、フィンランドの人々が「サウナなしの生活は考えられない」と言うのも納得できた。(文:作家、航空ジャーナリスト 秋本俊二/撮影:フォトグラファー 倉谷清文/SANKEI EXPRESS)

閉じる