両陛下 フィリピンご訪問 思い深く ご慰霊の旅

2016.2.3 13:30

 天皇、皇后両陛下は1月30日、5日間のフィリピン公式訪問を終え、帰国された。先の大戦の激戦地で亡くなった日本、フィリピン、米国などすべての犠牲者に、分け隔てなく哀悼の意を表された両陛下。アキノ大統領主催の歓迎晩餐(ばんさん)会や慰霊碑への供花、在比日系人との懇談など、すべての行事の中で戦禍によって尊い命を落とした人々と、その後の苦難の時代を生き抜いてきた人たちへの深い思いを示された。

 肌寒さを感じる26日の羽田空港では、皇太子ご夫妻、秋篠宮ご夫妻をはじめ皇族方のお見送りを受け、政府専用機に乗り込まれた。

 マニラ首都圏のニノイ・アキノ国際空港までのフライトは5時間弱。出迎えたアキノ大統領らとにこやかに握手を交わされた。フィリピン政府関係者からは、陛下に色鮮やかなレイ、皇后さまにブーケが贈られた。

 宿泊先のホテルでは、現地の日本人学校に通う児童の歓迎を受け、日本から派遣されている青年海外協力隊との懇談に入られた。陛下は、ダイビングで有名な島で観光振興に取り組む女性に「戦争がありましたが、不発弾は大丈夫ですか」と尋ねられていた。

 ≪54年ぶりのご再訪「深い喜びと感慨」≫

 1月27日午前には、マラカニアン宮殿(大統領府)での国賓の歓迎式典に臨まれた。大統領らの出迎えを受け、両陛下が会場中央の壇上に進まれると、両国国歌が演奏され、21発の礼砲が鳴らされた。

 陛下は大統領とレッドカーペットを進み、儀仗(ぎじょう)兵から栄誉礼を受けられた。終盤には、1970(昭和45)年の大阪万博のテーマソング「世界の国からこんにちは」が披露され、両陛下が笑顔で拍手される場面も。その後は、宮殿内に移り、両陛下で大統領らと会見された。

 27日午後には、両陛下の強い希望でマニラにある慰霊碑「無名戦士の墓」に赴き、フィリピン人戦没者を追悼された。強い日差しが注ぐ中、陛下は黒、皇后さまは白のスーツ姿で臨み、白い花輪をささげ、碑を見つめた後、しばらくの間、頭を下げられた。両脇にはフィリピン軍の兵士らが整然と並び、両陛下に合わせて黙祷(もくとう)をささげた。

 夜に催された歓迎晩餐(ばんさん)会。大統領は英語のスピーチで両国の友好関係の深さを強調し、感謝の気持ちを伝えた。返礼に立った陛下は、54年ぶりのフィリピン再訪に「深い喜びと感慨を覚えるものであります」と応じられた。

 フィリピン国内での多数の戦争犠牲者への思いを伝える際は、ひと言ひと言、かみしめるような口調で語られた。あいさつを終えた陛下は大統領と向き合い、飲み物が入ったグラスを近づけ、笑みを浮かべて乾杯された。

 宿泊先のホテルに、戦後の激しい反日感情による差別に耐えた日系人らを招かれたのは28日午後。一室で代表者とその家族に会い、ロビーで日の丸を振って待ち受けた約100人とも触れ合われた。皇后さまは、ほぼ全員と握手を交わしながら「来てくれてありがとう。体に気をつけて」と英語で語りかけられた。

 29日、両陛下が長年望んでいたカリラヤの「比島戦没者の碑」でのご慰霊が実現した。碑に供花し、拝礼した後は、そばで見守った約150人の元生還兵、遺族らにいたわりの言葉をかけられた。

 元生還兵の森田義員(よしかず)さん(89)が遺骨収集などに携わっていることを、陛下が皇后さまにご紹介。皇后さまは「ご苦労さまでした」、陛下は「体を大事にして元気でね」とねぎらわれていた。(EX編集部/撮影:古厩(ふるまや)正樹、共同、代表撮影/SANKEI EXPRESS)

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