“美しすぎるトイレ” 橋下市長も大絶賛「僕の施策の象徴例…誇らしい」

2015.9.21 17:14

 「臭い・汚い・暗い」の“3Kトイレ”の代表格だった大阪市営地下鉄のトイレが女性にやさしいトイレに生まれ変わったと評判だ。「おもてなしの心」をコンセプトに、女性用トイレには「音姫」や化粧直し用の「パウダーコーナー」を完備。着替え室まで備えているところもある。もはやトイレを超えたオシャレ空間に、くつろぎ過ぎて弁当を広げる客まで現れた。今月には国が主催する「日本トイレ大賞」も受賞。“美しすぎるトイレ”に変貌を遂げた秘訣(ひけつ)について橋下徹市長を直撃すると、「小さいことから結果を出すという僕の施策の象徴例。非常に誇らしく思っている」と笑顔で大絶賛した。(北村博子)

 長居したくなるトイレ

 新幹線と連絡する大阪の玄関口、地下鉄御堂筋線の新大阪駅。リニューアルされた女性用トイレに入ると、白を基調にした広々とした空間が広がる。中央には独立した大きな手洗い場があり、アクセントに飾られた造花のグリーンが目にさわやかだ。

 左手には新たに設置されたパウダールームが。ブースごとに鏡やカバンを置く台、小物置き、ゴミ箱まで備え付けられている。奥の一角には洋服店の「フィッティングルーム」のような着替え室まで用意するなど至れり尽くせりで、「本当に地下鉄のトイレ?」と驚くばかりだ。女性がひっきりなしに出入りするのは、使い勝手のいい証拠だろう。

 もちろん、あのツンとする刺激臭もない。かつては和式で、便器やその周りの汚れが目立ち、とても不快だった。今は個室に入れば擬音装置「音姫」が自動で作動。息を止め、急いで用を足した以前からは想像もつかない清潔さに、ついつい長居したくなる。

 トイレットペーパーの使用率も15%アップ。あまりの快適さからか、トイレで弁当を広げるマナー違反者までいるという。

 トイレ大賞の栄冠

 市交通局によると、以前は利用者からトイレに関する苦情が多く寄せられていたという。今では「清潔で気持ちいい」「安心で使いやすい」ともっぱらの評判だ。

 今月4日、この新大阪駅の地下鉄トイレが、内閣官房が主催する「日本トイレ大賞」の「国土交通大臣賞」に輝いた。鉄道事業者としては唯一の受賞で、交通局の担当者は「うれしいですね」と声を弾ませる。

 利用者からの喜びの声に、橋下市長も満足げだ。9月3日の定例会見では、地下鉄トイレに関する自身の思い出を披露。約35年前の小学生当時の新大阪駅のトイレを例に挙げ、「臭いし汚いし、どうなってるんだと思ってたんですけど…」と振り返り、「やっとお客さまに対するサービス意識が出てきたんじゃないですか」と評価した。さらに、「国鉄もJRになって急にサービスが良くなったと国民が感じてますよ。大阪市の交通局も(民間出身の)藤本(昌信局長)が大号令をかけて、職員意識を変えていった結果だと思います」と続けた。

 きっかけは乗客の苦情

 藤本局長は、京阪電鉄出身で、市営地下鉄・バス民営化の切り札として、橋下市長に請われて市交通局長に就任した。トイレの改修は、その藤本局長が掲げた「劇的なサービス向上」プロジェクトの大きな柱で、今里筋線を除く全112駅が対象。29億6千万円の予算を組んで平成24年から4年計画で段階的に工事を進め、9月1日現在で59%にあたる66駅で完了した。

 改修のきっかけは、トイレに関する苦情が多かったこと。交通局によると、「『汚い』『臭い』『暗い』など月に10件ほどあった」といい、利用者の改善要望の高まりを受け、開業以来初となる全面改修に乗り出した。

 まず、職員と有識者で「トイレ研究会」を発足。協議を重ねながら、改修の方向性を探った。その結果、すべての便器を和式から洋式に交換。等身大の人形(ひとがた)に「ようおこし」と書かれたトイレのマークや、木目調の内装など、インテリアデザインも一新した。化粧直しなどに便利なパウダーコーナーについては、女性職員の意見を尊重。小物を置く台のサイズや、カバンを置くスペースを確保するアイデアも採用した。

 また、場所によっては、落ち着いて身支度できるようにいすを置いたり、破れたパンストの履き替えなどに重宝する着替え室を設けたりしたほか、ベビーチェアも個室に取り付けるなど、とりわけ女性にやさしいトイレになるよう心がけた。

 個性派タイプも

 駅周辺の地域性を生かし、さらにこだわって改修したタイプもある。御堂筋線の新大阪、梅田、淀屋橋、なんばなど6駅のトイレで、インテリアも個性的だ。

 たとえば、新大阪駅は大阪の玄関口だけに「自分のお気に入りの場所に帰ってきたようなくつろぎ感」をコンセプトに、造花のグリーンで壁や手洗い場などを飾り、リラックスできるように配慮。このほか、梅田駅「エレガント」▽本町駅「成熟した大人のトイレ」▽なんば駅「ラグジュアリートイレ」-といったコンセプトをそれぞれ設定。インテリアデザインに生かしている。

 トイレの調査研究などを手がけるNPO法人「日本トイレ研究所」(東京)の上幸雄理事は「地下鉄の全駅にパウダールームやコーナーを備えている例は、東京でもまだそんなにはない」と指摘。「ようおこし」というトイレのマークについても「大阪ならではのユーモアセンスがあるのでは」と評価する。

 日本トイレ大賞

 産経新聞が地下鉄を利用する女性65人を対象に行ったアンケートでは、以前のトイレについては過半数が「使わない」「できれば使いたくない」と答えていたのに対し、リニューアルされたトイレについては、「うれしい」「入りやすくなった」「不安がなくなった」などと歓迎する声が9割を占めた。

 「以前は陰気くさいし紙はないしで、近くのデパートまで行くか、会社まで我慢していた。今は改善され、ハンドソープも導入されてうれしい」(奈良県大和郡山市・45際・無職)▽「以前のトイレはベビーチェアがなく困っていたので、リニューアルされてよかった」(大阪市浪速区・37歳・主婦)▽「絵の額などが飾られてくつろげる空間になった」(大阪府東大阪市・50歳・パート)などの声があり、「まだ使ったことがないので分からない」など8%を除く全員がプラス評価した。

 こうした女性たちの「生の声」を定例会見でぶつけると、橋下市長は「あ、そうですか。良かったです! うれしいですよ」と表情をほころばせ、「予算はかかりましたけど、やればみんなが喜んでくれて、みんなが来てくれてということで、やっぱり公務員はサービス業なんだと職員に感じてもらえれば、お客さまのことをまず第一に考える、そういう職場になると思う」と誇らしげに語った。

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