【試乗インプレ】高級感アップ “美”にこだわった500万円台のベンツ「Cクラスクーペ」(前編)

2016.9.11 17:10

 今回の試乗インプレは、今年3月に発売されたメルセデス・ベンツの新型「Cクラスクーペ」にフォーカスする。この連載でクーペを取り上げるのは、春先に紹介したレクサスの「RC F」以来、かなり久しぶり。見た目はフラッグシップモデルの「Sクラス」と見間違えてしまうほど貫禄が出てきたが、気になる走りや質感はどうか-。500万円台で購入できる“リーズナブル”なラグジュアリークーペの魅力に迫る。(文・大竹信生 写真・瀧誠四郎)

 「クーペ独特のカッコよさを楽しんで欲しい」

 メルセデス・ベンツ(以下ベンツ)の中で最も販売台数の多いクラスが、エントリーモデルの「Cクラス」だ。セダンやステーションワゴンと一緒にこのクラスのラインアップを形成するのが、今回主役のCクラスクーペ。ちなみにCクラスのプラットフォームをベースに開発したSUVが、4月に小島純一記者が試乗したGLCだ。

 車両を受け取りに東京・六本木のベンツ日本法人に行くと、ちょっとした“焦らし”を挟んで真っ白のCクラスクーペが颯爽と姿を現した。「おっと、これは思っていた以上にカッコイイぞ」。頑張って無表情を貫くが、心の中では思わずニヤニヤしてしまう。

 試乗車は「C180クーペ スポーツ+」という上級グレード。ボディカラーは光輝材をまぶしたダイヤモンドホワイトという色だ。ドアを開けると、ブラックを基調に所々アルミパーツを差したクールな内装と、強烈な存在感を放つ真っ赤なスポーツシートが目を引く。ベンツを見るとすぐに「カッコイイ」と言いたくなるのは舶来志向の強い一部日本人の“あるある”かもしれないが、でもやっぱりカッコイイ。そこには間違いなくドライバーや同乗者の気持ちを高ぶらせる最高のデザインと、自然と漂うオーラがある。これがベンツのブランド力でもあるのだろう。

 広報担当にこのクルマの魅力を聞くと、「やはりクーペ独特のカッコよさを楽しんで欲しいですね」ということだ。てっきり運動性能の話が来ると思っていたので、これはちょっと意外だった。

 エンジンパワーは…「おっとり系?」

 クルマに乗り込み神奈川県の箱根町を目指す。パワートレインは、1.6リッターの直4ターボエンジンに7速ATを組み合わせた後輪駆動車(FR)だ。最高出力は115kW(156PS)/5300rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgm)/1200~4000rpm。この辺はすべてCクラスセダンと同じスペックだ。

 運転して10メートルも走らないうちに気付くのだが、ドライブモードをノーマルのままアクセルを踏むと、パワーにやや物足りなさを感じる。「思っていたよりもおっとり系なのかな…」。エコモードに入れると、完全に省エネ走行に徹しているのが分かる。パワーが不要のときは極力燃費を抑えて、ここぞというときにターボを効かせるダウンサイジングエンジンの特徴が伝わってきて、これはこれで合理的。信号機とトラフィックが多い市街地でエネルギーを無駄遣いする必要など全くないのだから。

 では、このクーペは単なる見掛け倒しなのか。いや、そんなことはなさそうだ。高速道に入り、ダイナミックな走りを楽しめる「スポーツ+」モードを選択してアクセルを踏み込むと、4000回転まで一気に吹け上がり、高レスポンスのスポーティーな走りを披露。ターボのアシストのおかげで、高速度域で十分な加速力と伸びを発揮する。エンジンサウンドも“派手”な味付けにチェンジ。本格的なスポーツクーペと肩を並べるほどではないにしろ、ノーマルモードの手応えが薄かったこともあり、「けっこう熱い走りができるじゃん」となんだかホッとしてしまった。ただし、燃費を考えると「スポーツ+」で走り続けるのは非経済的。ベンツユーザーだって燃費は気になるはずで、走行シーンに合わせたモードの使い分けは大事だ。

 FRならではのコーナリング性能

 それにしても運転席からの視点が低い。最低地上高は115ミリ。筆者の目線はなんとガードレールと同じ高さで、周囲のクルマがいつもよりも大きく見える。そりゃ、地を這うように高速道を走れば体感スピードだってぐんぐん増す。

 タイヤサイズは前225/40、後255/35、19インチの低扁平ラバーを履いており、路面の荒れやロードノイズを拾いやすい。箱根や首都高の曲がりが続くセクションでコーナリング性能を試してみたが、低扁平タイヤ+FRということもあり、かなり鋭くコーナーを曲がっていく。硬めに絞った足回りやボディ剛性もかなり好印象。スピードを上げてもナーバスになることはないので、安心してハンドルを握ることができる。ただし、この感覚が味わえるのは「スポーツ」か「スポーツ+」モードを選択しているときだけだ。

 各モードで、様々なスピード域で走ってみたが、ずっと気になったのは静粛性だ。先ほども書いた通り、外部ノイズやエンジン音がそれなりに車内に響いてくる。エンジン音はクルマの魅力の一つだが、ドライバーのやる気を掻き立てるようなサウンドかというと、そういうわけでもない。最も穏やかなエコモードでも十分な遮音はできていなかった。静粛性と乗り心地を追求したコンフォート性能を取るのか、逆にもっとエンジンサウンドを作り込んでスポーティー路線に振るのか、もう少しクルマの性格をはっきりさせてほしいと感じた。

 “美”へのこだわりに妥協なし

 箱根でクルマを止めて内外装をじっくり見てみる。ボディサイズは全長4705×全幅1810×全高1405ミリ。ホイールベースは2840ミリ。クーペはセダンと比較して全高で40ミリ、最低地上高で25ミリほど低いので、全体的にロー&ワイドなフォルムだ。

 フロントから見ていくと、粒状に輝くダイヤモンドグリルの中央には「スリーポインテッド・スター」と呼ばれるベンツのエンブレムが、存在感たっぷりに座る。ヘッドライトやポジションランプはすべてLEDを使用。このポジションランプを起点にボディ側面を走る2本のキャラクターラインが車体に陰影感をもたらし、全体のフォルムをシャープに引き締めている。

 ボディはAピラー(運転席と助手席の前方にある窓柱)より後ろをクーペ専用設計としており、そこからリヤエンドに向けて描くルーフラインは実に流麗。けっしてデザインを妥協しない“美しさへのこだわり”を強く感じる。ドアミラーはAピラーに装着されたセダンとは異なり、スポーティーなクーペらしくドアに直接取り付けてある。2枚のドアは窓枠のないサッシュレス・タイプで高級感たっぷりだ。

 “絶景ポイント”は斜め後ろ

 筆者が一番気に入ったのが斜め後ろから眺めるリヤのデザイン。なだらかに落ちるルーフラインと鍛え上げたようにガッシリとしたフェンダー、側面を走るまっすぐなキャラクターライン、そしてリヤエンドのクイっと盛り上がったアーチ状の曲線が織りなすフォルムが文句なしに美しい。実に表現が難しい形をしたテールランプはシンプルでとても上品。ライトを点灯させると赤色の発色が濃いLEDが鮮やかに浮かび上がる。いささか褒めすぎかもしれないが、個人的にはずっと眺めていても飽きのこない惚れ惚れするデザインだ。

 最近のベンツのクーペはCクラス、Eクラス、Sクラスのどれも、サイズの垣根を越えてそっくりだ。一見でクラスを見分けるのはなかなか難しい。新型Cクラスには「あれ、Sクラス?」と見間違えるほどの風格や重厚感がある。ボディサイズは先代と比較して全長+65ミリ、全幅+30ミリと一回り大きくなった。いまのCクラスにかつての“見劣り感”はほとんど感じられない。たまたま東京に来ていた大阪勤務の小島記者にCクラスクーペの写真を見せると、間髪を入れずに「うわっ、カッケー」。その反応が事前に読めるほど、このクルマのデザインは秀逸だ。カッコいいクルマに乗る。ただそれだけで気分が盛り上がる。これはごく自然なことだ。Cクラスクーペは素直にその感覚を味わえた。

 今週はここまで。次回はこれまた秀逸なインテリアや総評をお届けする。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■主なスペック C180クーペ スポーツ+(試乗車)

全長×全幅×全高:4705×1810×1405ミリ

ホイールベース:2840ミリ

車両重量:1570キロ(※パノラミックルーフ装着時は1610キロ)

エンジン:直列4気筒DOHCターボ

総排気量:1595cc

タイヤサイズ:(前)225/40R19(後)255/35R19

最高出力:115kW(156ps)/5300rpm

最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1200~4000rpm

トランスミッション:7速AT

定員:4名

燃料タンク容量:66リットル

ステアリング:右

車両本体価格:585万円

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