ベールを脱いだ“走るホテル” 最高1人125万円…豪華列車「瑞風」の全貌

2017.3.18 16:15

 平成27年に惜しまれながら引退したJR西日本の寝台列車「トワイライトエクスプレス」。涙のラストランから約2年後の2月、後継の「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の車両や客室が、初めて公開された。6月17日から運行が始まる瑞風。最高で1人125万円という豪華寝台列車の内部はどうなっているのか。“走るホテル”の全貌を報告する。

 ファン感涙の仕掛け

 2月23日、大阪市淀川区のJR西の宮原操車場に100人を超える報道陣が集まった。目当ては初公開される「トワイライトエクスプレス瑞風」の車両だ。

 小出しにされるイメージ映像でいやが応にも期待は高まり、やっと完成したかと思えば、公開された車両はカバーで覆われていたりと、散々じらされた揚げ句の実物公開に、現場は朝から異様な熱気に包まれていた。

 午前11時過ぎ、来島達夫社長らが手元のボタンを押すと、車庫にかけられた幕が開き、警笛の一種、ミュージックホーンの音とともに、奥から鈍い深緑色に輝く車両がゆっくりと姿を現した。このミュージックホーンは旧トワイライトエクスプレスで使用されていたものと同じ。録音した音源を瑞風用に使うというファン感涙の工夫も凝らされている。

 改めて外観を見ると、シンボルカラーである深緑色に、金色のラインやエンブレムがあしらわれた高級感あふれるカラーリング。先頭車両は前面に展望デッキが設けられた特徴的なデザインだが、旧トワイライトエクスプレスと同じ丸形のヘッドライトを採用しており、懐かしさを感じる演出が施されていた。

 「菊乃井」「HAJIME」の料理

 瑞風は10両1編成で、客車のほか、両端の先頭車両が展望車となっており、食堂車、ラウンジカーといった編成だ。

 まず6号車の食堂車を案内された。見渡すと、オープンキッチンが目に入る。テーブルは8卓あり、一度に20人が食事できる。テーブルにはIHヒーターがついており、鍋物など熱々の料理を楽しめる。鍋は車両の揺れでこぼれないように返しがついている。「開発に1年以上かけた」といい、鍋ひとつとってもこだわりが感じられる。

 食事は沿線の新鮮な食材を使った料理が考えられている。「菊乃井」3代目主人、村田吉弘さんや、世界的に注目されるレストラン「HAJIME」のオーナーシェフ、米田肇さんらが開発。沿線の料理人らも参加する。

 ちなみに食堂車の名前は「ダイナープレヤデス」で、旧トワイライトエクスプレスと同じ。大きな窓から景色を眺めながらの優雅な食事が楽しめそうだ。

 アールデコ調の内装

 1号車の展望車へ。扉をくぐると、天井まで広がった大きな窓があった。開放感たっぷりの車内の両サイドにはソファが並び、側面に設置されている広い窓から眺望が楽しめるだけでなく、車外の景色を堪能できる。

 さらに、後方の展望車の場合、車外のデッキにも出て、風を肌で感じることもできるという。

 貫通扉を通り、隣の2号車に入った。2人部屋の客車「ロイヤルツイン」(1人27万~55万円)だ。

 高級なあつらえのテーブルセットや木材を多く使ったアールデコ調の内装。収納式のベッドを壁から引き出すと、高級ホテルにいるような気分になる。ベッドメークや収納は、車内クルーが食事などで部屋を空けるタイミングで済ませてくれるらしい。

 3号車もロイヤルツイン、4号車はロイヤルツインとロイヤルシングル(1人33万~67万円)。3、4号車を通り抜けた先の5号車はラウンジカー「サロン・ドゥ・ルゥエスト」。24時間、一部の高価な酒を除き、アルコール類やソフトドリンクを無料で提供する。バーテンダーがつくる本格的なカクテルもある。

 1両“まるごと客室”

 7号車が最高級客車「ザ・スイート」(2人利用、1人75万~125万円)だ。

 1両をまるごと1室にした世界でも珍しい客車という。エントランスには白い大理石が敷き詰められている。部屋に続く短い階段があり、手すりには20センチほどの銀色に輝くウサギの彫刻。神話の「因幡の白兎(うさぎ)」をモチーフにしたものらしい。

 部屋はリビングと寝室、浴室に分かれており、落ちついた暗めの内装だった他の客車と比べ、白を基調にした明るい雰囲気で特別感を演出。窓もひときわ大きく、開放感にあふれる。

 窓にもたれながら車窓を見ることができるよう、内壁に折りたたみのいすも設置されるなど、随所に工夫が凝らされていた。

 バスルームには他の客室にはないバスタブがあり、窓の外の景色を眺めながらゆっくりとお湯につかることができる。ただし、外からも丸見えなので、「素早く下ろせるように浴室のブラインドは手動にしています」という。

 8、9号車はロイヤルツインとなっている。

 高級列車旅がブーム

 大阪-札幌間を運行した旧トワイライトエクスプレスと違い、瑞風は大阪・京都-下関間を運行する。山陽または山陰を通る1泊2日コースと、両地域をめぐる2泊3日コースがある。

 列車旅だけでなく、厳島神社(広島)▽錦帯橋(山口)▽岡山後楽園(岡山)▽城崎温泉(兵庫)▽出雲大社(島根)▽鳥取砂丘(鳥取)-などの名所への立ち寄り観光もセットになっている。

 気になる運賃は、最安でも1泊2日で6~8月出発のロイヤルツインで1人27万円。9月出発が1人30万円、2泊3日の6~8月出発が1人50万円、9月出発が1人55万円といった具合だ。

 ザ・スイートは1泊2日の6~8月出発が1人75万円、9月出発が1人78万円、2泊3日の6~8月出発が1人120万円、9月出発が最高額の1人125万円になる。

 「一体誰が乗るのか」と思ってしまうが、最近、各地で運行しているクルーズトレイン(豪華列車)は高い人気を博している。

 JR九州の「ななつ星in九州」の運賃は1人あたり30万円から。最高152万円と高額だが、運行開始から3年がたつ今も、予約倍率が20倍を超える人気ぶりだ。東京から東北をめぐるJR東日本の「四季島」も、約50万~100万円という運賃設定にもかかわらず、平均倍率6・6倍という高い人気を誇る。

 瑞風の運行開始は6月17日。2月に発表された6~9月出発分の予約状況では、23列車すべてで定員を上回った。平均倍率は5・5倍、最高倍率は6月21日出発のザ・スイート(120万円)で68倍に達した。

 ただ、JR西の担当者は「たとえ満席になったとしても、それだけでは採算を取るのは厳しい。瑞風が運行することによって、沿線が活性化され、経済効果が高まることに大いに期待している」と話す。

 少子高齢化に伴い、これから本格的な乗客減少時代を迎える鉄道業界。単なる値下げではなく、逆にクオリティーを高めた豪華列車が人気を集めているのは興味深い。

 満を持して登場した瑞風は、豪華列車ブームをさらに盛り上げることになるだろう。

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